ダン君
シュウさんは天才だ。あらゆるものを書ける。
商人を騙す痛快な小説を書いたかと思えば、女性に秘めた思いを持つ気持ち悪い感情を持つことを否定したい人の心理描写を書く。そんな方が、酒に煙草に性に溺れるのを見たくなかった。彼の天才性が損なわれると思ったのだ。彼の堕落にはきっと理由があるはずだ。彼のたくさんの作品を読みたいから、シュウさんには長生きして規則正しい生活をして作品を書いて欲しかった。
俺は、シュウさんの作品が大好きだ。シュウさんは自分に作品を目の前で読まれることを嫌うので、俺は『痴人の愛』をこっそり愛読している。
シュウさんは俺と暮らすことでだんだんと天才性を取り戻していった。その様子が『痴人の愛』に被っていく。理想のシュウさんを俺が育てているみたいだ。シュウさんの天才性を俺が育てているようで誇らしく優越感を覚える。シュウさんとセックスするのは、俺がシュウさんを支配しているようで嬉しかった。
そんなシュウさんは、賞とやらの創設で変わってしまった。賞とやらを取るために俺から目を離して奔放に動くようになってしまった。天才性を損ない、俗っぽい賞とやらを求めて本当に堕落してしまったシュウさんを見捨てたかった。けれど、シュウさんの作品を捨てられない。
俺は、『シュウさんの作品』を愛しているのだから。
「一緒に死んでくれないかい?」
そう言われた時、俺は頷いた。これ以上、こんなシュウさんを見ていたくない。
「良いですよ。先生がそう言うなら」
俺は、シュウさんの天才的な作品の才能と共に心中することにした。