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【コラボ短編】コミュ障で陰キャな大魔道士が、禍を招く異世界人を溺愛したら~たとえあんたがこの世界を滅ぼしても俺は一向にかまわない~

作者: 来須みかん

 今思えば、俺の両親はクズだった。


 家が貧しかったこともあり、俺は産まれてからまともな食事を与えられていなかった。だから、物心ついたころには、いつも俺は腹をすかせていた。


 そんなある日、両親は7歳になった俺を魔物が住む森の中に捨てた。


 悲しいとは思わなかった。ただ、その日も俺は、腹をすかせていた。


 何か食べるものを探さないと……。


 そんなことを考えながら、森の中をさまよった。


 どれくらい日にちが経ったのかわからないけど、森の中で見つけた木の実などを食べながら俺は、その日その日を生きながらえていた。


 でも、ある日、うっかり魔物のテリトリーに入ってしまった。


 魔物は、テリトリーに入らない限り攻撃してこないけど、テリトリーに侵入した者には容赦をしない。


 するどい爪で襲いかかられ、俺は足に傷を負った。


 痛む足を引きずるように必死に逃げたけど、石につまずき転んでしまった。もう立ち上がる力もない。


 切り裂かれた足からは、血が流れ続けている。死ぬかもしれないと思うと同時に、『まぁ、それでもいいか』と思った。


 どうせ、俺が死んだところで誰も困らない。誰も悲しんでくれない。


 もう、自分がなんのために生まれて、なんのために生きているのかすら、わからない。


 俺は、ゆっくりと目を閉じた。そのとき、遠くで女性の声が聞こえた。


「あら、大変!」


 女性の声は、だんだんと近づいてくる。


「まだ息はあるわね」


 呪文のような声が聞こえた瞬間に、足の痛みがみるみると引いていく。


 たすかった……?


 そう思った瞬間に、俺は意識を失った。


 気がつくと、俺はベッドの上にいた。優しそうな女性が、俺の顔をのぞき込んでいる。


「気がついた? 良かった」


 その声は、森の中で助けてくれた女性の声と同じだった。


「ここは、私の家よ。あなたは、森で魔物に襲われて倒れていたの。覚えているかしら?」


 俺は、小さくうなずきながら、上半身を起こした。


「起きて平気? あなた一人で森にいたの? おうちの人は?」


 それは、俺を気遣うような温かい声だ。


「……いない」

「そう」


 女性の眉毛が悲しそうに下がる。『そうだろうな』と思っていたような反応だった。


「とりあえず、ごはんを用意するわ。ケガをして、たくさん血が出たから、その分取り戻さないとね」


 女性は明るく笑って部屋から出ていく。


 その日、俺は、生まれて初めてまともな食事をした。


 温かくておいしくて、たくさんおかわりしてしまったけど、女性は嫌な顔ひとつしなかった。


 *


 翌日、俺は動けるようになっていた。


 魔法のおかげなのか、足の傷はきれいになくなっている。


 追い出される前に、早くここから出ていかないと。


 寝巻きとして着せてもらっていた服を脱ぎ、元着ていたぼろぼろの服に着替える。すると部屋の外から声がした。


「ねぇ、いいでしょ? 私もお話ししたい!」

「だめよ、ケガはもう治っているけど、もう少し回復するまで待って」


「えー、ちょっとだけ!」

「あっ、こら!」


 そう言ってドアが開く。俺の視界に、髪を短く切りそろえたかわいらしい少女が飛び込んできた。


「あれっ?」


 少女は、俺の姿を見て驚いている。


「着替えてる。どっか行くの?」

「あ……えっ、と……」


 俺が返事に困っていると、「おっ、もう動けるのか?」と、後ろから男性の声がした。


「もう、あなたまで」


 あきれた声の女性。


 俺の前には、父と母と娘の3人家族が立っていた。


 無邪気な少女が俺に笑いかける。


「ねぇ、元気になったんだったら、一緒にあそぼ!」

「え……あ……」


 どうしたらいいのかわからず、俺は助けてくれた女性を見上げた。


「あなたが遊びたかったら、遊んでもいいわよ。でも、ケガが治ったばかりだから、ムリはしないでね?」


 俺がうなずくと同時に、女の子に腕を引っ張られた。


「行こっ!」


 パタパタと元気な足音を立てて、広間に連れていかれる。


「これ、私のおとうさんが書いた本。いっしょに読も!」と言って女の子は得意げに本を見せた。


 俺は、習っていないので字が読めない。そういうと、女の子が読んでくれた。


「ねぇ、あなたの名前なんて言うの?」


 こんな風に話しかけられたことがなかったので、どう答えたらいいのかわからない。


「あ……と、ヴォルク……」

「あとぼぉるく?」

「ちがう、ヴォルク!」

「ヴォルク、ね! 私はリナ」


 リナは、ニコッと笑った。


 その日は、日が暮れるまでリナと遊んだ。次の日も、その次の日も。


 俺は『いつ出て行こう』『出ていかなきゃ』と思いながら、毎日を過ごしていた。


 両親ですら邪魔で捨てた俺なんかが、ここにいたら迷惑になってしまう。


 そう思っていても、リナに「遊ぼう」と誘われると断れずに居座り続けてしまった。


 いつのまにか子ども部屋にベッドが一台増え、食器も1セット増えた。そして、自分の服も買ってもらった。


 そんな日々が続き、1ヶ月経ったころ、俺は思い切って助けてくれた女性に聞いた。


「俺……いつまで、いていい?」


 女性は少し驚いて「あら、いつまでもよ! だって私たち、家族じゃない」と笑った。


 その言葉を聞いて、俺は少しだけ泣いた。こうして、俺は三人と家族になった。


 助けてくれた女性には、「私のことをお母さんって呼んでね」と言われたけど、恥ずかしくてとてもじゃないけど呼べなかった。


 俺が困っていると、女性は「じゃあ、魔法を教えてあげるから、魔法の師匠でいいわよ」と妥協してくれた。


 でも、俺は、いつまでたっても師匠とも呼べないでいた。


 あとからわかったことだけど、森の中に隠れるように住んでいた師匠は、大魔女と呼ばれる偉大な魔法使いだった。


 師匠は、リナだけではなく、俺にも丁寧に魔法を教えてくれた。


 俺が手のひらから火の玉を出すと、リナが瞳を輝かせる。


「わぁ、すごいすごい!」


 師匠も喜んでくれている。


「本当、こんな短期間で火の玉が出せるようになるなんて。ヴォルクは才能があるわ!」


 その言葉に、リナはシュンとなった。


「なんで私は出せないのかな? おかあさんの子なのに」

「小説家のお父さんの血が濃かったのかもねぇ」

「じゃあ、いつかお話が書けるようになる?」

「そうかもね」


 リナは俺に向き直った。


「じゃあいっか。私が魔法を使えない分、ヴォルクにたくさん魔法、見せてもらお!」


 リナは俺が魔法を見せると喜んだ。リナに喜んでほしくて、俺は日々、師匠の指導のもと魔法の鍛錬に明け暮れた。


 魔法はどんどんうまくなっていったけど、俺はいつまでたっても、うまく話すことができなかった。


「ヴォルク、遊ぼう!」

「……あ……ああ」


「今日は、何して遊ぶ?」

「……え……と……」


 俺は自分の意見を聞かれるのが苦手だった。


 いつまでたってもうまく答えられないから、今は遊んでくれるリナにも、いつか嫌われてしまいそうで怖い。


 でも、リナはそんなことを気にした様子もなく、俺をあっちこっちに引っ張りまわした。


 おじさんは、「こら、リナ。そんなに連れまわしたら、ヴォルクくんが困ってしまうだろう?」と言っていたけど、俺はすごく嬉しかった。


 *


 それから、三年後。

 俺が10歳になるころには、師匠も驚くほどの魔法を操れるようになっていた。


 リナも「すごい」と喜んでくれている。


 でも、俺は相変わらず人と話すことが苦手だった。


 苦手だけど、一緒に暮らしている人たちは、だれもそんなことを気にしない。


 俺は、こんな幸せな日々がずっと続くのだと思っていた。


 ある日、広間で本を読んでいた俺の元に、真剣な表情の師匠がやってきた。


「ヴォルク、いい? 大切な話があるの」


 師匠が言うには、リナは『わざわいを招くもの』と呼ばれる存在で、そのことがバレると捕まって殺されてしまうらしい。


「そんな……どうして?」

「リナには、すごい力があるけど、みんなはそれを正しく知らなくて、おびえているの」


 師匠は、俺の髪を優しくなでた。


「リナを守るために、私があなた達を異世界に転移させるわ。だから、ヴォルク、リナを守ってあげてね」


 異世界に人を転移させる魔法なんて聞いたことがない。


 そんなことをしたら、いくら大魔女とよばれる師匠でも、魔力を使い切って死んでしまうかもしれない。


「あんたは……どうなるん、だ?」

「私の魔力では、三人を転移させることが限界なの。だから、私はここに残るわ」


「ダメ、だ……そんなの……」

「リナが生まれてからずっと、今まで逃げ続けて隠れ住んできたわ。でも、どこにいても見つかってしまう。だから、もうこれしかリナを守る方法がないの」


 師匠は、命がけでリナを守ろうとしている。俺だってリナを守りたい。でも、師匠がここに残るなんて納得できない。


「三人しか、異世界に行けないなら……俺が、ここに残る」

「え?」


「あんたたちがいないと、リナが悲しむから……。親がいない辛さは……俺が、よく知ってる」

「ヴォルク……」

「俺は一人で大丈夫だから!」


 師匠は、泣きながら俺を抱きしめてくれた。


「……今まで、ありがとう……師匠」


 俺はその日、初めて師匠を師匠と呼んだ。

 それを聞いた師匠は、涙を流しながら、嬉しそうに微笑んでくれた。


 *


 そして、月明かりの下、森の中にある湖のほとりで、師匠とおじさん、それにリナの三人が、俺と向き合っていた。


 リナは師匠の魔法により、すでに記憶操作をされていた。


 もしそうされていなかったら、リナは『ヴォルクも一緒に連れていく』『ヴォルクも一緒じゃないと行かない!』と、泣き叫んでいたと思う。


 俺もリナが向こうの世界になじめるように、そうしたほうが良いと師匠に言った。


 そのせいで今、リナは意識が朦朧としていて視点が合わない。


 もう、俺のことがわかんないんだな。


 たまらなく悲しくなる。しかし、そんなことは、言っていられない。


「ヴォルク、あなたを連れて行けなくて、本当にごめんなさい」

「……俺は、大丈夫。異世界なんか、行きたくない……から」


 俺は、精一杯のウソをついた。


 今まで面倒を見てくれた人達に、これ以上の負担はかけられない。


 師匠はこれから、自身の魔力を全部使い切るほどのことを成そうとしている。


「俺は、師匠に……魔法を、教えてもらったから。なんとかなる」

「そうね、あなたは本当にすごい素質があるわ。きっと歴史に残る大魔道士になるわね」


 師匠は微笑んだ。その優しい笑みを目に焼き付けつつ、俺は、ぎゅっと両手を握りしめる。


「……リナを狙う追手が、すぐ近くまで来てる。いつここが見つかるか、わかんねーぞ。……もう、行きなよ」


 わざと突き放すように言うと、師匠は泣きそうな顔で「優しい子」とつぶやいた。


 おじさんが「これからは、あの家は君のものだから。家のものは、自由に使ってくれ」といってくれたので、俺はうなずいた。


 師匠の呪文の詠唱が終わり、異世界への扉が開く。


 師匠はその場に倒れ込んだ。おじさんが「大丈夫か?!」と師匠を支える。


「ええ、大丈夫よ……」と、弱々しく答える師匠の魔力は尽きかけていたが、命に別状はなさそうだ。


 3人が光に包まれ、もうすぐだと俺が覚悟したそのとき。


「……また、ね」


 意識が朦朧としているはずのリナが、俺のほうを見てそうつぶやいた。


 その瞬間、光と共に3人の姿は消える。辺りは、静寂に包まれた。


 まるで最初からこの場には、俺しかいなかったようだ。


 サワサワと湖の表面が揺れている。俺は最後のリナの言葉を思い出した。


「……また、って言った……?」


 リナたちに、また会える?


 ムリだと思う気持ちと、もしかしたらという期待で、ずっとこらえていた涙があふれた。


「……もし。もし、リナが……戻ってくることがあるなら……俺が絶対、守るから。何があっても……絶対に」


 そうして俺は、家族のいなくなった家に一人、帰っていった。


 *


 あれから10年の月日が過ぎた。


 10年後の俺は、『魔道を極めし者(グラン・ソーサラー)』と呼ばれる存在になっていた。


 国の偉い人や、いろんな組織から誘いを受けたけど、すべて断り、俺は今でもリナたちと過ごした森の中の家で一人暮らしている。


 10年前のあの日から、リナたちが、いつこっちの世界に帰ってきても良いように、ずっとこの家を守っている。


 俺は、子どものころにやったように、手のひらから小さな火の玉を出して宙に浮かべた。


 リナは、これを見るのが大好きだった。


 ―― ……また、ね


 あんな、たった一言にすがるなんて、自分でも馬鹿らしくて笑ってしまう。でも、リナのあの一言があったから、今日までやってこれた。


 外から、ギャアギャアと魔物の叫び声が聞こえる。今日は、森がやけに騒がしい。


 窓を開けると、遠くから人の悲鳴が聞こえた。


「は?」


 こんな真夜中に、この森に立ち入るなんて、どうかしている。


 見捨ててもよかったけど、家の周辺で死なれて腐敗でもしたら臭くて仕方ない。


 仕方がないので、俺は悲鳴が聞こえるほうに魔法を使って飛んでいった。


 湖のほとりで、大勢の魔物に追い詰められているバカがいる。


 雷の魔法で魔物を黒焦げにすると、俺はそのバカに近づいた。


「ったく、魔物と追いかけっこって、どんな命知らずだよ」


 文句のひとつでも言ってやらないと気が済まない。


「おい、あんたケガとか……え?」


 そう言いながら、腰が抜けているのか、まだ座り込んでいるバカの顔を見て、俺は言葉を失った。


 月明かりに照らされた若い女性は、たしかに10年前に別れたあの女の子だった。


 ── リナ……


 俺が、リナを見間違えるはずがない。


 リナは、あのころからすごくかわいかったけど、今は成長して、とても美人になっている。


 ああ、そうか、これは夢か。


 俺がそう思った瞬間、立ち上がろうとしたのかリナがバランスを崩し倒れこんだ。


「おい、大丈夫か!? ……リナ!」


 返事はないけど、確かに俺の腕の中にリナがいる。


 リナの体温が伝わってきて、これが夢ではないのだと教えてくれる。


「……戻って……来たのか」


 俺は気を失ってしまったリナを、横抱きに抱きかかえた。

 そして、壊れやすい宝物のように慎重に運ぶ。


 リナは、この世界で『わざわいを招くもの』と呼ばれている。


 リナがこの世界に来たということは、近いうちに、この世界にはわざわいが降りかかる。


 その禍がなんなのか、どれだけ調べてもわからなかった。


 大昔の文献によると、過去に現れた『禍を招くもの』のせいで、大勢の人間が死んだらしい。


 でも、それがなんだ?


 俺がすることは、リナを守ること。ただそれだけだ。


 たとえ、この世界が滅びようとも、そんなこと、俺には少しも関係ない。




 おわり




読んでくださり、ありがとうございました!


このお話は、コラボして書かせていただいたものです^^


連載版があったんですが、諸事情ありまして、今は公開されておりません。


改稿したバージョンの連載版はこちらです↓


【完結】幸福を呼ぶお姫様と森の魔王~異世界に行った私の帰りを10年間待っていた魔王公爵からの愛が重すぎる~

https://ncode.syosetu.com/n0972iz/

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