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双子の片割れ ノクトside

 『サクラ』という名の花が舞い散る中、ミアが俺の肩にもたれながら眠っている。その穏やかな寝顔が、少なからず俺に心を開いている証拠でもあることに、内心喜びを感じていた。

 『サクラ』は通称“夢見草”と呼ばれるらしい。その名の通り、まるで夢を見ているかのようで、思わず確認するように眠る彼女の頭を撫でる。

 確かな感触と彼女が少し身じろぐ様子に、これが夢ではないことが確認でき、ほっと胸を撫でおろした。


 この世界で一本しかない『サクラ』の木。この木は枯れることはなく、常に花を咲かせている。初めてミアと出逢った時も満開だった。

 そしてその時、俺と一緒にいたアイツにとっても思い入れが深いだろう。この木も、彼女も――。


 当初、俺がこの城をミアに案内するはずだったが、急遽側近の双子がもたらした来客の知らせによって、阻まれてしまった。

 その来客の用事が重要なものであったがために、それを無下にすることもできない。

 後ろ髪を引かれる思いでその来客の元に向かえば、相変わらず無表情なアイツがそこにいた。


「久しぶりだな、ルーク」

「あぁ」


 ――俺の双子の兄弟だ。

 

 ルークには彼女に渡すペンダントの加工に協力してもらっていた。

 彼は天族の地で暮らしている。そういう加工技術に関しては天族のほうが得意であるために、俺は自身の魔力を石として抽出し、それをルークに手紙と共に送った。

 その手紙には、“彼女が戻った”ということも記しておいた。


 だからこうして、わざわざ魔王城まで赴いたのだろう。


「これが頼まれていたものだ。出来上がりに不備がないか確認してくれ」


 そう言いながらルークが箱をテーブルの上に差し出した。

 箱を開ければ、赤いシルクの布で保護されたペンダントネックレスが鎮座している。

 俺の魔力石である銀色の光を帯びた蒼い石を中心として、『サクラ』の花をイメージした繊細な模様が施されていた。

 

「完璧だ。助かった」


 用事としてはこれで終わり――ではあるが、彼が立ち上がる様子はない。

 元より俺も、それだけで済ますつもりもなかった。


「ミアに、会うか?」

「…………」

「……会うまでしなくとも、一目見るつもりだったんじゃないのか」


 ルークは視線を落としながら、しばらく黙り込んだ。彼の中の葛藤が見てうかがえる。

 時計の秒針の音が聞こえた数が二桁になろうとしていた頃、彼は立ち上がり言った。


「今はまだ、やめておく。感情を抑えられる気がしない。それに……、今の俺は、まだ相応しくない」


 “相応しくない”――それは罪悪感故か。彼の中で決めた理想像があるのかもしれない。

 普段口数が少ない彼が、自身に言い聞かせるように言葉に出しているあたり、混乱に近い心理状況なのだろう。


「なら、その時が来たら言ってくれ。……必要なら伝言でも預かろうか?」

「いや、大丈夫だ。その時に、自分の口から言う」


 そう言ったルークの目はペンダントを見つめていた。

 その目からは、後悔と共に嫉妬のような感情があるように思えた。






 淡い色の花びらが舞う中眠る彼女は、どこかに消えてしまいそうな儚さを感じた。

 俺は思わず手を繋ぎとめ、彼女の髪に唇を落とす。


「もう、容赦はしない」


 誰であろうとも。何であろうとも。


 双子の兄弟であろうが、……その兄弟に、彼女が想いを寄せていようが。


 ――もう二度と、失うわけにはいかない。



「愛してる、俺の(ミア)夕桜」




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