第六十話 始祖の一族
エルシーの声に反応し、集落の住人たちが各屋から顔を出し、リンネたちの方へと歩いて来た。
そして、リンネたちの前にやってくるとその住人たちは急に片膝をついて跪き
「「「おかえりなさいませエヴァ様」」」
その住人たちはエルシーの方を向いて跪くき、全員が頭を下げ一斉に声を揃えて発していた。
「ちょと待て!私の名前はエルシーだ!エヴァなんて名前じゃないぞ!ってエヴァ?どこかで聞いたような…えっママ?エヴァって、エヴァ・スカーレットの事か?」
「ママですと?ではあなた様はエヴァ様もご息女様ですか?」
「エヴァ・スカーレットは私のママだが…私はエルシー・スカーレットだ。でも、お前たちの言うエヴァが私のママかは知らんぞ」
「あなた様はエヴァ様がノンヘルン魔人領の領主をお止めになり、国を出た時の姿と瓜二つにございます。間違いなくあなた様は元領主エヴァ様のご息女様でございます」
「ちょっと待て!ママが元領主?って事は元魔王なのか?それと、ママが領主って事は、ママは人間じゃないのか?」
「エヴァ様は我々ヴァンパイア族の長で、始祖の血を最も濃く受け継ぐスカーレット家の当主様でございます」
「おいリンネ、何か私は人間じゃないみたいだぞ」
「ああ、聞いてたぞ。エルシーはヴァンパイアと人間のハーフで、あのエヴァおばさんが元魔王だと。訳が分からんな」
「私もさっぱり意味が分からん」
「でも確かに、エヴァおばさんは異常に強かったな。剣聖とまで呼ばれていたらしいグランおじさんも手も足も出ていなかったしな」
「パパが家訓にしていた《ママの言うことに逆らえば死》は冗談とかじゃなく、本気の家訓だったんだな」
「あの、宜しいでしょうかご息女様」
「ご息女様とかこそばゆい言い方はやめてくれ。エルシーでいいぞ」
「それではエルシー様。本日はどのようなご用件で、このヴァンパイアの集落へお越しに?あと、エヴァ様はお代わりありませんでしょうか?」
「ママの昔は知らんが、ママは元気だぞ。元気過ぎて何度も死にかけたがな…。私たちはシルビアン王国からノンヘルン魔人領の調査の為にノンヘルン魔人領に来たんだ。この集落へ来たのは偶然だ」
「そうでしたか。エヴァ様はお元気ですか。それで調査が目的との事ですが、なにゆえに危険なノンヘルン魔人領の調査に人間の国家が乗り出したのでしょうか?」
「それは俺から説明しても良いか?」
「あなたは?」
「俺はリンネ・アルフィード。エルシーの幼馴染だ」
「エルシー様のご友人でしたか。それでその理由とは?」
「二十年ほど前にノンヘルン魔人領の領主が代替わりした頃から、ノンヘルン魔人領から他国への侵略が増えたんだ。俺たちの国も被害はあったが、今までは人間ではノンヘルン魔人領の調査は危険とされていたんだが、最近になって人間も力をつけノンヘルン魔人領の調査も可能と国王が判断したから、今回俺たちはノンヘルン魔人領の調査にきたんだ」
「そうですか。二十年ほど前の代替わりでしたら、ちょうどエヴァ様から現領主のホロ、鬼人のホロへと代替わりした頃ですね。エヴァ様はめんどくさが…平和的な人で、人間との争いは好みませんでした。しかしホロは残虐な性格で、さらには太古の鬼人族の守人らしく、人間を太古の鬼人族の生贄に差し出しているという噂も聞きます」
「いいぞ、ママがめんどくさがりなのはノンノ村でも有名だ。何せ家事は全てパパがやっているからな」
「それで、お前たちから見て現領主のホロって奴が、他国への侵略の原因だと思っているのか?」
「そうですね。領主一族がノンヘルン魔人領の中央都へ居を構えます。そして、ノンヘルン魔人領全域で見れば我々の様に小さな集落が多数存在します。それこそ種族ごとに集落が存在します。エヴァ様が領主を務めていたころは我々ヴァンパイア族がノンヘルン魔人領の中央都に住んでいましたが、代替わりした一族はこのようにノンヘルン魔人領の一番端、辺境の地へと追いやられます。我々にはエヴァ様ほどの力はございませんので、ホロに逆らう事など出来ず今に至っています」
「じゃあ、そのホロって奴をぶっ飛ばせば全て解決するのか?」
「そんな簡単な話じゃないだろ。たとえそのホロって奴を倒したとして、次の領主の選定も必要だ。次に領主になった奴が同じような思想なら、同じことの繰り返しだ。それに、エヴァおばさんに劣るとは言え、そのホロって奴が現領主なんだろ?そんな奴が弱いわけも無いだろうしな」
エヴァおばさんはハッキリ言って強すぎた。
昔一度だけ手合わせをした事があるのだが、その時リンネの魔力付与値の限界は500万しか無かった。
そして、遠慮はいらないと言われたので、500万の魔力を注いだ身体強化を使用してエヴァおばさんへと殴り掛かった。
今とは違い子供だったこともあり、手加減など何もせずに、ただただ思いっきり殴った。
500万の魔力を注いだ身体強化は、ぶっちゃけそれで人を殴ってはいけないレベルだ。
その状態の昔のリンネと今のエルシーを比べても、まだまだ全然その頃の俺の方が強かった。
スピードだけならエルシーの方が少し上だが、その状態の俺ならどれだけ攻撃を喰らってもダメージは無いだろう。
たぶんランスを相手にしても一撃で戦闘不能になるほど、もしかしたら命を奪ってしまうかもしれない。
しかし、エヴァおばさんはそんな子供の頃の手加減を知らない全力の一撃を、片手で軽々と受け止めたのだった。
そしてそのままカウンターで正拳突きを貰い、一撃で意識を奪われたのだ。
その後エヴァおばさんから
「ごめんねリンネちゃん。リンネちゃんがあまりにも強くて、つい反撃しちゃったよ。私が今まで見てきた中でもトップクラスに強いよリンネちゃんは。でもそれだけの力がみんなに知れ渡ると色々と面倒な事になるから、なるべくその力は隠した方がいいよ」
そう忠告を受け、リンネはなるべく人と関わらないような生活をしていたのだ。
しかしながら、今のリンネが全力で戦えば、もしかしたらエヴァにも勝てるかもしれないが、そんな事をすれば国が一つ滅びかねない。
そんなエヴァの次に領主になったホロが弱いとはとても思えない。
「えっと、これだけ話しておいてアレだが、お前の名前は何て言うんだ?」
「私はヴァンパイア族現当主のファウスト・シュタインと申します」
「それでファウスト、領主のホロって奴は強いんだよな?」
「そうですね。我々ヴァンパイア族全員で同時に挑んでも勝てないでしょうね。ホロの周りには強力な鬼人も複数いますので、我々ではどうすることもかないません」
「エヴァおばさんと比べるとどうなんだ?」
「エヴァ様は特別にございます。エヴァ様一人でホロクラス10人程度です。あのお方は長いノンヘルン魔人領の歴史でも圧倒的な力を持っていました」
「なんだ、ホロって言うのはその程度なのか?それならエルシーでもどうにかなるか?」
「無理だぞリンネ。私が10人いたぐらいでママに対抗出来ると思うか?ママの強さは異常だ。ママとリンネの力だけは未だにわからんほどだからな」
「そうか。じゃあヴァンパイア族のみんなにも協力してもらって、エルシーの特訓と行くか。俺がやっても良いんだが、どうせなら人間よりも亜人が決着をつけた方が今後の為にもなるだろ」
こうして、急遽エルシーの特訓を始める事が決まったのだ。
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