第四十六話 サンドバック
会場のいたるところで首をかしげ、またどよめきも起きている。
「リンネって誰だ?そんな奴聞いた事ないぞ?」
「大魔法演舞大会に出てたか?」
「お前知ってるかそんな奴?」
まあ、当然の反応だろう。
俺の名前が出てクエスチョンマークが頭に浮かばないのは魔法師帝と第十宮廷魔法師団のみんなぐらいだろう。
「へえ、クロエちゃんが選ぶって事は、リンネ君は本物なのかな?」
「リンネ君は私なんかよりずっと強いっすよ」
「でもクロエちゃん、それはちょっと良いとは言えないな」
「…どうしてっすかジーナさん」
「答えは単純。リンネ君には実績が全くないからよ。エルシーちゃんは新人とはいえ、第九のバラン君を倒したって実績があるから文句は無いの。でもリンネ君にそんな実績はないでしょ?それに聞いた話したと初級魔法しか使えないみたいじゃない。そんな子を誰が代表として認めるのかな?選ぶ権利はクロエちゃんにあるけど、シルビアン王国の代表だって事は忘れちゃダメだよ」
「そうっすね。それはジーナさんの言う通りっす。確かにリンネ君には実績がないっすね。では、どうしたらその実績を、どうしたら認めてくれるっすか?」
「おい団長、俺は別に交流戦に出れなくても構わないぞ」
「ちょっと君は静かにしててね」
「黙ってるっすよリンネ君は」
何とも言えないプレッシャー放つ二人に、とりあえず俺は口をふさいだ。
「そうね、じゃあリンネ君の実績作りと、みんなに認めてもらうために、私から提案があるんだけど、聞いてくれるかなクロエちゃん?」
「なんすか、そのいやらしい笑い方は。いいっすよ、言ってください」
「ありがとう、クロエちゃん。それで提案の内容だけど、リンネ君には今から私と試合をしてもらいたいんだ。私に勝てれば文句なし、勝てないにしても実力を示せれば誰も不満はないんじゃないかな?」
「いいっすよと言いたいとこっすが、それはダメっす。ジーナさんとリンネ君がぶつかったら危険っすよ。誰かとと言う話であれば、そうですね、ランスさんじゃダメっすか?私でも良いっすが推薦してる身っすから、八百長と言われかねないっすからね」
「ぶー、せっかくリンネ君の実力が分かると思ったのに。まあそこまで言うならしょうがないか。ランス君はいいかな?」
「俺がその小僧とやるのか?おいクロエ、俺は本気でやればいいのか?」
「もちろん本気でお願いするっすよ。じゃないと誰も認めてくれないっすから」
「そいつも新人なんだろ?しかも使えるのは初級魔法だけだよな?どんな怪我をしても恨むなよ」
「大丈夫っすよランスさん。ランスさんじゃリンネ君に怪我なんて無理っすよ」
「大きく出たなクロエ。まあいい、お前に負けたうっぷんをその小僧で晴らさせてもらうさ」
「リンネ君も良いっすね?」
「俺に拒否権はあるのか?」
「無いっす。断ったら私にしたあんなことこんなことを尾ひれ背びれつけて噂を広めるっす。それはもお、シルビアン王国にいられないぐらいに尾ひれ背びれつけるっすよ」
「たく、どんなパワハラだよ。まあ俺は第十宮廷魔法師団も気に入ってるし、団長の元を離れるなんて考えられないし、しょうがないからやってやるよ」
「私から離れないなんて」
クロエは誰にも聞こえないような小声で言いながら、赤くなった顔を隠していた。
それを見たジーナはクロエに
「クロエちゃんも苦労しそうだね。でも頑張って青春するんだよ」
クロエにしか聞こえないようにそんな事を言うと、クロエはさらに赤くなり
「何言ってるっすかジーナさん。それよりランスさんとリンネ君の試合をお願いするっす」
クロエは何とか持ち直し、ジーナの方を向き直す。
「そうね。じゃあ今からさっそく始めようか。会場はここを使うから、みんなはリングから離れてね」
表彰式は闘技場のリング上で行っていた為、リングにいた人はすぐに下りてリングの上には俺とランスだけが残った。
「なあ団長、どうやって戦えばいいんだ?」
「そうっすね。小型人形だとリンネ君の強さもわかりにくいっすよね。ん~、最大付与した身体強化でランスさんの攻撃を全てノーガードで受ければいいっすよ」
「団長は俺にサンドバックになれと?」
「そのぐらいされても平気っすよね?」
「ランスは団長の真竜化と同じぐらいの力があるんだよな?」
「まあ、ほぼ互角っすね?」
「それのサンドバックになれと?」
「無理っすか?」
「無理じゃないが、少しは痛いだろ。たぶん」
「それは我慢するっす」
「やっぱりバカなのか団長は?」
「バカとは失礼っす、リンネ君!」
「なあクロエと小僧、夫婦漫才はそのぐらいでいいのか?」
「いや、俺たちは別に夫婦じゃないぞ?なあ団長?」
リンネはあっけらかんとランスの言葉に返すが、クロエに関しては
「私とリンネ君が夫婦?ああ何て良い響きっすか」
顔を隠しながら誰にも聞こえないような声でぼそぼそと何かを言っている。
「どうしたんだ団長?」
リンネの言葉にハッ!としたクロエは
「さあ、リンネ君は今からサンドバックっす。ほら、ランスさんに殴られてくるっす」
「酷い扱いだな小僧。それで、小僧は本当にサンドバックになるつもりか?」
「まあ、そこまで団長が言ってるし、しかたないだろ」
「ふん、可愛そうな小僧だな。では一発殴らせてもらうぞ」
「金剛石拳」
ランスはダイヤモンド化した拳を使い、三割程度の力でリンネに殴りつけた。
「ん?思った以上に軽いな?これがランスの本気なのか?」
「ほお、思った以上に頑丈な奴だな。安心しろ、まだ半分も力を込めていないからな」
「本気で殴っても構わないぞ?」
「ふん、クロエのとこには生意気な奴が多そうだな。じゃあ遠慮なく行くぞ」
そうは言いながらも、全力の七割に抑えてリンネを殴るが
「さっきと変わったか?若干こそばゆい気もするが」
「これでも全くダメージが無いだと!?いや、きっとやせ我慢をしているだけ…次こそは本気だ!」
「火廣金拳」
ランスは最強の硬度を誇るヒヒイロカネに拳を変質させ、今度は全力でリンネを殴りつけたのだが
「確かに、さっきまでに比べればずいぶんと力は入ってるな。でもまだ少し押された程度だし、遠慮せずに全力で来てもいいぞ」
「はぁ、もおいい。おいクロエ、なんだこの化け物は?俺はこいつに勝てるイメージが全く持てないんだが。そもそも、俺の攻撃など全く効かないだろうな。ジーナ魔法師帝、この小僧の実力は本物だ。俺の力を大きく上回る」
「へぇ、お世辞の言えないランス君が言うなら本当だね。クロエちゃん、リンネ君の参加を認めるよ。それと、俄然リンネ君に興味がわいたよ」
ジーナは非常に笑みを俺に向けていたのだ。
こうして交流戦に出る五人が決定した。
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