第十七話 絶対無理
人間誰しも、これだけは絶対に無理だって言う物はありますよね。
無理は身体に悪いので、我慢はしない方が良いですよね。
「さあ行くっすよリンネ君!」
「昨日まではほとんど移動で、今日からダンジョン探索だな。本当に楽しそうだな」
「楽しいっす!ワクワクが止まらないっす!」
「じゃあ26階層に行くか」
昨日の内に26階層の階段の手前まで来ていたので、今日はすぐに26階層に移動することになる。
クロエは前回もここまで来た時点で、アイテムボックスに入っていた魔法具が底をついたので帰る事になったようだ。
しかし、今回はほとんど使用もせずに来れ、食料も余裕はある為、今回こそは最下層を目指す事になっている。
ただ、ダンジョンは通常10階層毎に大きな変化がある為、26~30階層に関してはそこまで目新しい物は発見出来なかった。
しかし、今までよりもレア度の高いアイテムや鉱石もあり、クロエに関してはウハウハらしい。
そうして、五日間を掛けて30階層から31階層へ降りる階段の目の前まで到達した。
「ついに来たっすねリンネ君!ここからは誰も足を踏み入れたことが無い未知の階層っす!」
「それに、おそらく次の階層からはまた様変わりするんだよな?1~10階層は通常の洞窟、11~20階層はアンデット系モンスターが多い墓地、21~30階層は沼系モンスターが多い湿地、次はどんな感じなんだろうな」
「ダンジョンによってばらばら何で全く予測は出来ないっすね。でも墓地に湿地と暗い所が続いたんで明るくなってほしいっす」
「それもそうだな。じゃあ31階層に進もうか」
俺とクロエは次の階層がどんなのかを話しながら階段を下りていく。
そして階段が終わり31階層に付くと、そこには森林が広がっていた。
「それにしても墓地や湿地、それに森林か。ダンジョンってのはどうやって出来てるのか不思議だな」
俺が31階層についてダンジョンの在り方について不思議がっていると、横には静かなクロエがいた。
クロエが31階層に付くと俺の裾を掴んで動かなくなった。
そして新しい階層だと言うのに全くはしゃいでいない。
そんなクロエを不思議そうに見ていると
「…だっこ」
「ん?どうしたんだ団長?」
「だっこ」
「だっこ?ん?どういうことだ?」
「リンネ君、何も言わずに私を抱っこするっす」
クロエはそう言って、俺の正面に回って飛び乗って来た。
「どうしたんだ団長?」
「いいからしっかり支えるっす!自力でずっとはしがみつけないっす!ほら、どこ触っても良いから抱きしめるっす!私は何も見ないっす!何も聞かないっす!用事があれば尻でも叩いて合図をするっす!」
「おい団長?」
クロエは俺が何か言おうとする前にはアイテムボックスからアイマスクと耳栓を取り出し、視覚聴覚を遮断した。
クロエ作のアイマスクと耳栓は完全に情報遮断が可能で、既に俺の声は聞こえていない。
そして、正面から抱っこしてることもあり、完全に尻を持って支えてる状態だ。
しかも常に小刻みに震えている。
どうしたのかと考えていると、目の前には一体のモンスターが現れた。
「ああ、そういうことか」
目の前に現れたのは巨大なカマキリ。
森林に生息するモンスターは昆虫種のようだ。
遠くに見えるのも巨大なトンボか?
とにかく巨大な昆虫がそこら中にいるようだ。
虫嫌いには地獄絵図なんだろうな。
しかし、40階層まで森林は続くのである程度の方針は固めないとダメだ。
その為、目の前の巨大カマキリを「火球」で倒すと、一旦30階層へ戻っていく事にした。
そして30階層に戻るとクロエのアイマスクと耳栓を勝手に外し
「ちょっ!!何するっすか!返すっす!!」
「落ち着け団長、ここは30階層だ。一旦戻って来たんだ」
「はっ!ホントっすね。さて、31~40階層は私は無理っす。なのでリンネ君は私を抱っこして運ぶっす」
「その事で打ち合わせだ。ただ抱っこするにしても休憩や野営も必要だし、鉱石やアイテムは見たいだろ?」
「鉱石やアイテムは見たいっすけど、虫は無理っす。御飯は勝手に口に押し込んでくれればいいっす。野営はそうっすね、湯あみはしなくても良いっすけど、さすがに長期だと臭くなるっすよね。リンネ君が私の湯あみをしてくれていいっす。見るのも触るのも何でもありっす」
「いやいや。何考えてるんだ?とりあえず、小鳥型の小型人形を数体飛ばしておいて昆虫系モンスターは近づかないようにするから普通に行くぞ」
「無理っす!同じ階層にいるってだけで無理っす!足が震えて歩けないっす!立ってられないっす!!そうだ!抱っこしてくれれば何とか大丈夫っす!歩くのは無理なんでお願いするっす!!」
クロエは本当に駄目なようで、頭を地面に擦りつけるほどに土下座をして懇願してきた。
ここまでくると、この後の行動としては引き返して最下層を諦めるか、抱っこして進むかの二択だ。
一人で攻略しても良いのだが、クロエを置いていくのも可哀そうだし、結局答えは一つみたいだ。
「たく、ほら抱っこしてやるからこっちに来い。その代わり食事と湯あみは自分で頑張れよ。そこまでは面倒は見ないからな」
「わかったっす!自分で食べるっす!自分で洗うっす!」
クロエは土下座状態からどうやったのか飛んできて、がっちり正面から抱き着いて来た。
足も腰に絡ませ、絶対に離れない意思が伺える。
しかしそれでもやっぱり無理なようでアイマスクと耳栓はして、何か用事があるときは尻を三回叩く事になった。
尻を三回叩かれた時は素直に従ってアイマスクと耳栓を外す事を約束して、再度31階層へ向かう事になった。
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