九十三 さめさんから得た思考
さめがほしい。
えへえへロコロコに戻ったロコ・パートイーサさんは言いました。
「えへへっ、だんちょー、ロコロコさめさんほしいな! えへへへっ!!」
「わったくしもぉ、ほっしいぃでっしてよぉっ!」
ついでにアウウェン・トルス=ブロントロスさんも便乗してきやがった。
なにがって、さめのお肉を使った煮込み料理(屋台ver.)が売っていたのだ。
環境に配慮してなのか、あるいは経費削減か、陶器で頼んだ人には返すこと前提で最終的には少しだけお安くなるらしい。代わりに盗まれること防止のためか、買う時はちょいお高めになっている。
まあ原価自体は確かに使い捨ての容器よりは値が張りそうだった。
にしても、ロコさんにアウウェンさんや。
御主ら、もう食べただろうに。さっきそれぞれ食べただろうに!
……まぁいいか、と思うテニーチェさんなのでしたとさ。
思えばこうやって、休みの日に第七の誰かと外出するのは初めてな気がしなくもない。
たまには上司らしく部下とかに振る舞うのもありなのかもしれない。
普段から上司であることには気を遣ってはいるが。
……もしかすると、そう実のところ割ともしかするとの確率で、上司と部下ではなくなってしまうやもしれないから。
――一週間。
長々しく過ごそうと思えば、多分過ごせる。
というより、過ごさなくてはならないのかもしれない。
一般的に、将来へのターニングポイントと分かっている決断は、すんごく悩んで、どっちのが後悔しないかとか色々とシミュレーションして、ようやく見つけた『自分の納得する答え』というものを胸に抱えなくてはならないのかもしれない。
…………のかも、だけど。
「えへっ、だんちょー? どしたの〜? えっへへ!」
「もしやぁ、団長様も食っべまぁしてぇっ?」
二人が呼んでいる。
『団長』と、呼称してくれている。
どうやら自分は正しく、少なくともナミスシーラ王国の第七王宮魔道師団の長としては正しく在れているようで。
思い返す。
あの日ごめんねと言った彼女を。
それでも道は続いていくからと、励まし蹴落としているようにしか聞こえなかった言葉を。
だって。
……だって。
(今の私は、彼女が服を選ばない服すら買ってしまえる。『彼女に感想を持って帰るため』じゃない、自分のために……ただ楽しむために、目の前にあるさめの煮込み料理を買おうと思ってしまっている)
――自力で積み上げてきた地位だって。
この手の中に、握りしめているのだから。握りしめてしまっていると、気付いてしまったから。
「では、パートイーサさんとトルス=ブロントロスさん。このお金で五人分、買ってきてもらってもいいですか?」
「えへへっ、いいよぉー! えっへへへへ」
「わっかりましたわぁ! とっころでぇ、残りのぉっ二人分は?」
「私が自分で食べるためですよ」
別の空間から財布を取り出す。
この財布に入っているのは、テニーチェがテニーチェ=ヘプタとして稼いだお金だけで。
かつては毎日のように考えていた彼女のことを、そういえば団長に就任してからは考えない日もでてきたな、と思いかけて。
ああけど。
そうでもないな、とも思った。
――そんなの、囚われている。
――一緒に逃げよう。
――ほら、君は強いんだからさ。
――君ならきっと勝てる。
――だから、ね?
いつかの言葉。
断ったら、そんなのずっと近くにいるからと言われて。
だからというわけではないけれど、偶然にも彼女と物理的に離れた暮らしを一年弱送った。
送って、再認識した。
彼女という存在に囚われているわけではないことを。
あくまで自分がいたいから、彼女といたことを。
「ではお二人とも、よろしくお願いします」
「えへっ、いってくるね〜、えへへ」
「はい!っでっしてよぉ!!」
財布から幾らかのお金を取り出してロコたちに渡す。
一週間後に聞くと言われた国王陛下からの返答は、まだ決まっていない。
それでもやっぱり、かつてから変わってしまったことはあるから。
(……昔は、彼女だけ、だったのですけれどね)




