九十一 ほっぺたが落っこちるのは何も食べている側だけではないのである
毎度毎度遅れて本当にすみません……
「わったくしでしてぇ?」
うむむ、と首を傾げるアウウェン・トルス=ブロントロス嬢。
「お昼でっすしぃ、団長様っとぉ同じく、肉系を食べたいぃでっすわぁっ」
るんるん気分なアウウェンさんに、テニーチェは首を傾げる。
「ですが先ほど唐揚げの方はいらないと」
「ちっがうにっくが食べたいぃっ、でっすわぁっ!」
即答アウウェン。
有無を言わせないあたり、さすがはお嬢様として育てられてきた力強さというものがあるのかもしれない。
ないのかもしれない。
そこらへん、お嬢様ではないテニーチェさんには判別がつかなかった。
ともかく、アウウェンお嬢様の仰せのままにとテニーチェは歩き出す。
勝手に心の中でそう思って執事気分を味わっているだけのテニーチェさんでもありましたとさ。
わたあめもふもふしているロコ・パートイーサさんが後ろからついてきているのを確認しつつ、テニーチェはアウウェンの目指している先を視界に入れる。どうやら、とんかつ串のお店らしい。
「わったくし、みっそかつがたっべたいでっすわぁ!」
「わかりました」
そんでもってお嬢様がご所望なのは味噌カツらしい。美味しいよね。
さっくり揚がった衣に、ほんのり甘さのある味噌をつけていただく一品。串で食べる時は汚さないように気をつけないといけなかったりもするかもだけれど、まぁ美味しいので万事解決なのである。
テニーチェはいつぞやに彼女に言われて買ってきた味噌カツのサンドイッチも美味しかったなという思い出をもっている。あれは、一体どこの店のものだったか。割と有名なところだったらしいから、もしかするとこの王都にも支店、本当の本当にもしかすると本店なんていうものがあるかもしれない。もしあるんだったらもう一度食べたいものであるという心を抱きつつ。
順番が来て、味噌カツ串二本とうずらの卵の串を一本買ったテニーチェ。
「こちらでよろしいですか?」
「はっいですわ! あっりがとうごっざいますでっすのぉ!」
超超テンションぶち上げなアウウェンさん。
しかしながら食べ方は服などを汚さぬようにと優美さも伴った方法で、まずは受け取った味噌カツ串一本をパクリ。
「んんぅ〜」
めちゃくちゃに美味しそうに食べていた。どれくらい美味しそうかって、見ているこっちのほっぺたが落ちちゃいそうなくらいに幸せそうな表情をして。
そうしてテニーチェから二本目の味噌カツを受け取って、食べようとした。
その時だった。
「あら、ロコ?」
――声が、した。




