九十 再会
それはまさかの再会であった。
「こ、れは……」
ナミスシーラ王国王都、商業地区の大通り。
お昼時ということもあって一層人で賑わうそこに『それ』はあった。
一本の長めの串。
大ぶりに切られた『それ』は、少し深めの黄金色を宿している。
ほかほかと美味しそうな香ばしい匂いを漂わせた『それ』は、確かにテニーチェにとっては驚愕すぎる再会だった。
「クアットホワライトン……!?」
そう。
何を隠そう、クアットホワライトンの唐揚げ串である!
あのクアットホワライ魔境にのみ存在しているというクアットホワライトン。
テニーチェは覚えている。あの豚を狩るためにどれほどの苦労をしたのかを。そして、その苦労に見合うだけの美味しさがあったことも。
まさか、こんなところで、苦労もせず食べることができるだなんて……!
テニーチェは悩んだ。
主に串を買い占めるかどうかでものすんごく悩んだ。
だって美味しいんだもん。お金は十分にあるんだもん。食べたいなら買ってもいいよね!? と、半ばやけ気味に鼻を鳴らしたテニーチェさん。
今だけはあの王宮魔道師団の長だよとか言われても信じられないような雰囲気を灯していた。
そして、気づく。
「……おひとり様、一本まで……?」
まさかの個数制限ありだった、ということに。
なんだかざわざわするなと振り向いて見れば、テニーチェを筆頭に五人程度ではあるものの列ができている。
色々な任務で培ってきた高速思考にて悩みに悩み抜いたわずかな時間だったというのに。
だがなるほど、相当に人気の商品のようだ。あれだけ美味しければおかしくもない、とテニーチェも内心頷く。
「……三本ください」
断腸の思いでそう口にするテニーチェ。
一人一本、ここには三人いるので三本。
毎度〜、と軽い口調なおっちゃんから三本の唐揚げ串を受け取って、テニーチェたちは列の最前から外れる。
テニーチェは、また悩んだ。
この串を独り占めするか、二人にもあげるかの二択で。
「えっへへ! だんちょー、ロコロコあれ食べたい!! えっへへへ!」
そんなテニーチェの思考に入り込んできたロコ・パートイーサの声。
何かと思ってニッコニコ笑顔なロコの指さす先へ視線を向けてみると、あちらもあちらで賑わっている屋台があった。目を凝らしてみる。どうやら、星とか月とかのアイシングクッキーで彩られたカラフルかつ大きいわたあめのお店らしい。
お昼時だというのにまずおやつから摂取しようとするロコなのであった。
……え?
「ロコ様、ごっはんは食っべないのでっしてよぉっ?」
「えへへ、食べるよぉ。でもでも、あれも食べたい! えっへへ」
「ああ、なっるほど。そっういうこっとでしてねぇ……」
「えへへ」
アウウェン・トルス=ブロントロスとロコの間で通じる会話。
何かあるのだろうかと首を傾げつつも、テニーチェは返答しつつ尋ねる。
「わかりました、パートイーサさん。ところでお二人は、この串、お食べになりますか?」
「えへへ、ロコロコはわたあめの方が食べたい! えっへへへへ」
「私も、他のものが食っべたいでっすわぁっ!」
まさかのテニーチェさん一人で三本独占できちゃう案件だった。
「そうですか。ではまず、パートイーサさんの綿あめから買いに行きましょう」
「えへへ! やったぁ!!! えっへへっ」
「承知いったしましたわぁ」
パタパタ、と先に駆けていくロコ。テニーチェはアウウェンと歩を合わせてわたあめの売っている屋台に向かった。
多分、と思う。
テニーチェがかつてのクアットホワライ魔境、別名四季魔境にてクアットホワライトンをとくと気に入っていたことを、共に任務として四季魔境へ来ていた二人も知っている。だからこそ、気を遣ってくれたのだろう。
もしかすると普通に今は唐揚げの気分じゃないだけなのかもしれないが。
どちらにせよ、テニーチェが久しぶりにクアットホワライトンを割とたくさん食べることができたのは事実な訳で。
服選びに付き合ってもらったことも踏まえ、二人の食べたいというものくらいはしっかりと食べさせてあげようと改めて心に決めたのであった。
そんでもってやってきましたはカラフルぅなわたあめ屋台。
メニューを見る感じ、五種類くらいのわたあめこと土台と、トッピングを色々できるみたいだ。
カスタマイズ性に富んだわたあめですこと。
「どうされるのですか?」
「えへへ、えっとぉ……そー、だなぁ……えへへ」
ムムッとロコは口元に手を当てては悩んでらしてる。
ちょっと真剣味がかったそのお顔は、本当の本当に悩んでいるんだなぁってわかるようなお顔だった。
んー、なんて唸り声まであげちゃってる。
「……えへっ、じゃあじゃあ、この青と紫と黄色のギャラクシーわたあめに、水色のお月さまをつけてほしい! えへへっ」
「はい、では少々お待ちください!」
ちょうど順番がやってきた一行。
ロコが注文をすると、ふわふわなミニドレスアレンジがされたピンク色と白と黒なメイド服を着たお姉さんが一本の竹串を手にした。
わたあめの機械の真ん中にザラメを入れる。
少しして漂い出した糸のような砂糖をくるりくるりと竹串に巻きつけていく。
やがてふわっふわな宇宙色のわたあめが現れた。そこに銀色なアラザンを振り掛け、ロコの頼んだ月をちょこんと鎮座させる。
「どうぞ」
「えへへ! ありがとう!!! えっへへへ」
お姉さんからわたあめを受け取ったロコさんはご満悦な笑顔を浮かべていた。
ちなみにテニーチェ、わたあめが作られている間にお会計を済ませちゃっていたのであります。
「ところでパートイーサさん、なぜギャラクシーわたあめになさったのですか?」
テニーチェからの質問に、すでにわたあめへはむついていたロコはお口の中をごっくんしてから答えた。
「えへへ、だってだんちょーの魔道の色に似てたから! えっへへ!」
「私の魔道に?」
「えへへへっ」
嬉しみを全身から発している少年ロコ。大きく口を開けてはパクリわたあめを口にする。
まさかの団長様の魔道由来の注文だった。
そこまでお気に入りだったとは今この瞬間まで知り得なかったテニーチェ。
闇色の魔道は、深い暗い色ではあるが、確かに光の影響によって宇宙のような煌めきを持っているとも表現できなくはない。
そうだったんだなぁ、と思いつつ。
さて。
「トルス=ブロントロスさんはどうなさいますか?」
次はアウウェンの番である。
クアットホワライトン、合宿@四季魔境ぶりの再会。
ところであと十話で百話ですね。なんてことだ。




