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仮面をつけた王宮魔道師団の長  作者: 叶奏
合宿@四季魔境
9/95

九 半分仮面は蠢々する



「仮面の素材、ですか?」

「そうです。団長の仮面っていつも同じのですし、ゴムとかで留めてるわけじゃないのに落ちてこないじゃないですか。なんで、魔道具かなにかなのかなぁ、って」


 白銀の仮面。

 今つけているのは、顔を全て覆うタイプのもの。ヒュドア・ウィルフィーアの言う通り、物理的に留めるものはない。取り外すときも着けるときもただ顔から離したり当てたりすればいいだけだ。


「魔道具……そうですね」


 ちらりと、テニーチェの視線が団員二人から逸れる。仮面の奥の白銀色をした瞳は、どこか迷うように揺れていた。

 だがそれも一瞬のことで、すぐに微笑みを添えながらテニーチェは返答する。


「私にしか使えない、専用の仮面ですよ。製作の段階から私の魔力を織り込まれております」

「魔力を素材の一つとしてもっちいた仮面、でっすのねぇ?」

「魔力を素材に……?」

 聞いたことない、と怪訝そうにするヒュドア。それでも歩みは止めない彼女の腰元できらり煌めいたのは、細長い金属製の笛だった。フルートとかいう管楽器に似ているな、なんて思っていたら、その持ち主からびっくりするくらい真剣に見つめられた。


「団長、それ、どこで作ったんですか?」

「どこで? えっと、そうですね。私の友人お手製のものですよ」

「その友人に会うことって、できますか?」

「す、すぐには無理だと思いますが……」

「じゃあ、いつなら会えます? できれば早いうちに会いたいです」


 なんかすごく質問責めにされた。ぇえー、とテニーチェ、今度は明確に視線を逸らす。厚が凄かった。すさまじいくらいに圧力でギュぎゅッと圧されている気がする。

 そして真剣ヒュドアのとなり、アウウェン・トルス=ブロントロスはよくわからないって顔して首を傾げていた。ぱちくりした瞳は、確かに第七の姫だと思うくらいかわいかった。でもテニーチェ、今はそんなこと考えている暇もなく。


「あー、え、っと、そうですね……」


 友人に確認しておきますね、なんて軽い言葉で約束できない。あるいはただの世間話程度なら軽い言葉で済ませていたかもしれないが、どう考えてもヒュドアが世間話をしているとは思えない。

 だって、圧が凄い。


「……ごめんなさい。友人とはすぐに会える距離ではありません」


 明らかに落胆していて、でも諦めきれないとまだ付き合いの浅いテニーチェでも察せるような表情だった。


「そ、そんな、じゃじゃあ! 転移の魔道とか使えば……! 他にも、飛行船とか快速列車とか。移動のためのお金が必要なら、ボクが払います。貯金崩せば、世界の裏側からだってここにこれるくらいのお金ならありますからっ」


 気付けば歩みは止まっていた。

 およそ百六十センチのヒュドアが百八十センチちょいあるテニーチェを見上げる形で拳を握りしめている。


 ――いーんじゃね?

 ふと脳内に響いた声に対し、()()()()()()テニーチェは返した。

 ――駄目でしょう、流石に。

 ――いーだろ別にぃ~。ァー俺からしっちぁ、オマエが苦しんでる方が楽しめるけどなぁー。

 ――そうですか。

 ――ヒェ~、つっめてぇ~。

 ――ソウデスカ。

 ――ァ……ハイ、スミマセンデシタ。

 ――ソ・ウ・デ・ス・カ。

 ――……………………。


 テニーチェは小さく息を吐く。目前のボクッ娘の瞳には、未だゆるぎない光が宿っていた。


「申し訳ありませんが、如何なる交通手段を用いても友人がいる場所へ行くことはできませんし、友人がこちらへ来ることもできません」

「…………」

 ヒュドアは唇を噛み締めている。頭の中に響いた声みたいに黙らないでください、と言える状況ではなかった。

 それからまた悩むように視線を揺らしたテニーチェは、ですが、と続ける。


「こちらの、上半分のみの仮面を、私の監視の元ででしたらお貸しすることはできます」


 少女はゆっくり、目を見開く。

 テニーチェの言葉を徐々に納得したのだろう。手元にある仮面に視線が吸い寄せられる。


 ――よろしくお願いしますね。

 ――…………ァ?


「こちらの仮面、今着けている仮面の分体なんです」

「……ブンタイ?」

「ええ、人工生物の。おそらく、見ていただいた方が早いと思います」


 ――ぇ、オマエ、いーんか?

 ――何がですか?

 ――ァー……や、なんでもねぇっす。


 モゾッと主に目元を隠すために作られた、テニーチェが現在身に付けている仮面半分ほどの大きさの仮面が蠢いた。白銀の更に銀色がかった見た目金属な模様が何やら配置を変えていく。

 やがて、ふっと止まった。


「……ァ……チィっす」


 確かに耳の鼓膜が震えた。男の声だった。でも半分仮面に口はない。

 テニーチェは心のなかで、コイツの挨拶軽すぎないかと思った。口にはしなかった。


「しゃ……べった?」

「ぇえ、喋りました、わっね」


 団員二人は呆然とあんぐり口を開けている。

 なんだなんだと他の団員たちもこちらを見ていた。


「俺、こんな注目されんの、ハズいんですが……」

「我慢しなさい」

「ァ……ハイ……」


 この仮面、頭のなかでの念話でくっちゃべってたときと性格が違う気がする。

 まぁ気にしないでおこう、とテニーチェは心底呆れた溜め息を我慢してにっこり笑った。


「ウィルフィーアさん、友人と会う代わりに、コイツとの会話で手を打っていただけませんか?」


 ――ぉーい、オマエ、笑ってんの見えてねぇぞぉ~。

 ――他の団員も呼びましょうか?

 ――スミマセンデシタ。



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