八十三 さんさんのさんさんさん――ばーじょんつぅー!!――
遅くなりました。
すみません。
休暇を貰った。
ので、まずは食べ歩き――ではなく、睡眠である。
任務中はほぼ睡眠を取れなかったし、帰ってきてからの昨日は昨日で報告書作りであんまり寝れてない。
要するに、割と疲れちゃってるテニーチェさんであった。
第七団員たちに放送を通して今後一週間のことを伝えたのち(なお詳しいことは第二の団長ムスーミュス=デュオ・クスッタロスに聞くように言ってある。決して団員たちからの質疑応答が面倒くさかったからとかそういう理由ではないのだ)、テニーチェは自室の寝室に戻ってきて、すぐさまベッドに入る。
もうすぐ一年ということもあってか、仮面をつけたままの就寝にも随分と慣れてきた。
そのまますやぁ……なテニーチェさんです。
相当お疲れのようだったのであります。
☆☆☆
そこは暗澹とした波のようで、けれど揺らぎ一つもない静寂にすら包まれていると感知すら出来ないような空間だった。
心の内をはためくのはかつての自分。
面影よりも確かに強い、当たり前だったはずの光景。
少女、もしくは婦人と呼称されるほどには歳を重ねた彼女は、それが自分でないことを知っていた。
あれから一年が過ぎようとしている。
今でも追い求めようとする心は、残っている。
でなければあんなに嫌いだった戦闘能力を自ら上げようと、わざわざ時間外にまで鍛錬をしようなんてこと、していない。
自分を見るためには鏡を見なければ見れない今。
けれどここでは、鏡越しではなく直接、自分を見れている。
ならばここは夢と呼ばれる場所なのだろう。呑まれそうになる心境で、少女或いは婦人は思った。
きっと引き上げられることはない。
少なくとも今の状況では、到底無理な話だ。
だって現実に彼女はいない。
いつだって隣よりも近い場所にいた彼女は、いないのだから。
苦しいとは感じないけれど悲しいとは感じるような心境は、たぶんどこの誰にも――彼女以外とは、共有出来ないものなのだろう。
ああ。
仮初めの現在を生きる私は。
果たして何色に映っているのだろうか。
闇色を纏っているのは、在りし日を己に刻みつける為ただそれだけだというのに。
そんなことを、考えてしまった。
☆☆☆
さんさんさんっ、と太陽は照っている。なんとも愉快なお目覚めこと、すっきり爽快テニーチェさん。
見た夢のことは覚えているけれど、それはそれとして疲れは取れたようです。やったぁ!
ぐっと気持ち良さげに伸びをして、その勢いのまま上半身を立ち上げる。
倣って布団がずり落ちた。
酷く平和な一連の流れに、テニーチェは思わず鼻で笑ってしまう。
あそこにはさんさんと差す太陽なんてものはない。
ここに住む人たちがあそこに住むことになったら、きっと病んじゃう人大量発生中状態になっちゃうんだろうなと思った。




