八十 魔力のない世界
「テニーチェちゃんの見込みだと、技術そのものが違うって感じたわけなのね?」
「はい。
動力源が異なれば、必然と技術の成り立ち方も異なってきますから。似ている動力源であったとしても、たとえその使用方法がほぼ同じだったとしても、技術体系に変化は出てしまうものです」
「そうね。テニーチェちゃんの方が、そこら辺のことは詳しいもの。正しいと思うわ」
またゆらりと闇色ヴェールを揺らした国王陛下。
テニーチェ側としてもそう言われる理由は分かってるため、特段狼狽えることなく姿勢を保ったままに国王へと対面している。
「じゃあ、仮称・藍の世界では何を動力源としていたのかしら?」
「私の技術では調査し切ることが出来ませんでした」
「テニーチェちゃんの見立てで大丈夫よ」
「畏まりました。
まず、虹の世界で魔力と呼ばれている力、ないしはそれに近しい力でないことは確実かと思われます。理由は、あちらの世界での物体に魔法を使った際に全くの抵抗がなかったためです。
魔力、もしくは魔力に近しい力があるのなら、意図していなかったとしても多少は抵抗がありますので」
「なるほど。
じゃあここからは私用も入るんだけど、もし仮称・藍の世界で使われていた力を完全に解明したとして、テニーチェちゃんなら何ができると思う?」
問いに、そうですねとテニーチェは口をつぐむ。じっと身動きも取らない。
国王陛下からの質問に考えているのであった。
魔力のない世界。
正直、想像もしたことがなかった――といえば、嘘になる。
想像したことはあった。
あったら、私たち姉妹はどんな運命を辿っていたのだろうと、会話を交わしたことはある。
話して、想像を膨らませて、でも結局はあるんだから仕方がないよねで終わろうとして。
じゃあ今の技術を伸ばしていけば叶えられるだろうかと、話は繋がっていったのだったか。
――どうだろうね。
確か、彼女は言っていた。
――でも、もし出来たら、魂という存在そのものの定義が変わってきそうかな。面白い観測は出来ると確信しているよ。
だからテニーチェは、こう答えた。
「私と友人の在り方が変わるでしょう。できるできないの話で言えば、私と友人の今の関係から更に一歩踏み出せるでしょう。
それが、前進になるのか後進になるのかは、今の私には分かりませんが」
「……テニーチェちゃんの友人さんの研究に何かしらの影響を及ぼすという意味でよろしいかしら?」
「仰る通りです」
返答に、国王陛下は「そ」と答えて、珍しく小さな息を吐き出したのであった。




