七十九 団長さんは息を呑む
謁見申請した翌日。
テニーチェは国王陛下に謁見すべく、謁見室へ向かっていた。
廊下に嵌められた大きな窓からはほんの僅かに日が差し込んでいる。
朝だっていうのに王宮内の光が人工的な灯りでほとんどを補われていた。
理由は単純明快な、今日の天気は雨だから、である。
雲と雫の合間の合間を縫って目には見えないくらいになった、けれども確かにあるほぉんやりとした光だけが、今の自然界を覆っていた。
謁見室の扉の前に到着し、テニーチェは一つ呼吸をする。
扉番をしている兵士さんに頷いた。
やがて許可が降りたのか、扉が開く。
スタリスタリと歩を進めるテニーチェ。
規定の場所まで行くと、膝を折って首を垂れた。
「第七王宮魔道師団団長テニーチェ=ヘプタ、参上しました」
「顔、あげていいわよぉ」
国王陛下はいつも通りの口調だった。まぁ変わる理由なんてないけど。
雨でも通常運転、それが国王である。
許可も出たことなので、テニーチェさんは顔を上げましたとさ。
「本日は申請時に――……!」
そしてテニーチェは息を呑む。
呑んで、呑んだ理由に頭が回転して、今はまだその時ではないと瞼を閉ざして振り払う。
「……申し訳ありません、続けます」
「テニーチェちゃんが何かを言い淀むなんて珍しいわね。私の顔に何かついていたかしら」
「いえ。陛下の顔はヴェールで隠れておりますので」
「そうね。
……まぁいいわ。続けなさい」
「承知しました。仮称・藍の世界における未知探査の結果を報告します。
陛下、こちらが報告書になります」
そう言ってテニーチェは、手に持っていた紙を差し出す。
陛下の目配せによって動いた近衛兵が報告書をテニーチェから預かり、国王に手渡す。
ゆらり闇色のヴェールが揺蕩う。
報告書を読んでいるらしい国王陛下に対し、テニーチェは一呼吸おいて話し始めた。
「仮称・藍の世界は事前情報通り、一面に広がる海と空のみの自然で構成されている世界でした。海空迷宮についても、何かしらの条件によって海の中と外に移動しているようです」
「それで?」
「海空迷宮に、おそらく人工的に作られたものと見られる知能を有する存在がありました」
「あら。人工的にということは、テニーチェちゃんのアージュスロくんみたいな感じであっているかしら」
「申し訳ありませんが、わかりません。どうやら技術体系そのものがここ虹の世界のものとは異なる様子でしたゆえ」
「技術体系が、ね。理由は?」
「仮称・藍の世界の物体には、少なくとも私が確認した限りでは一つとして魔力の籠っているものがなかったからです」
テニーチェの返答に、国王陛下はただへぇ、と興味深そうにヴェールを揺らした。




