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仮面をつけた王宮魔道師団の長  作者: 叶奏
未知探査@海空迷宮
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七十三 お父さん!?



 その音は、突如として沸き起こった。


『おぉぉぉまぁぁぁえぇぇカァぁぁぁあ!!!!!!!』


 機械声。にしては、海空さんみたいなザ・機械みたいな声ではない。

 ……というかこの声、聞いたことある。


『ちょっ、マスター!?』

『我が娘に近づくやつは、誰であってもお父さん、許さんぞぉ……ッッ!!!』

『黙ってくれませんッ!!? ねぇ!!』


 機械の声も裏返るんだなぁ、なんて思いつつ。

 海空さんの声に挟まれた言葉は、紛れもなくいつぞや空気を大きく震わせた開発者さんのものだった。

 彼女やら何やら言っていたくせに、やっぱりお父さん気分が強かったのかもしれない。てかそうじゃないと、今こうやって姿()()()()ことはなかっただろう。



 第七団員の前に出現したそれは、スタイリッシュな形状をしたメカ。



 虹の世界に散見している迷宮ではまずお目にかかることのできないであろう、生物要素故の威厳さ皆無の存在であった。

 いや、別の意味で格好良くはあるんだけど。


 人型、とは似て非なる存在。

 つるり滑らかな黒味がかった青を基調とし、こちらは壁とは違い白い光がメカの溝に沿って流れている。

 目であろう部分は黄色い枠に囲まれた水色をしていて、どう見てもテニーチェ一行を睨みつけていた。


『お父さん、通さんぞぉ! 娘を嫁になんてやらんからなぁっっっ!!!!』

『だから黙ってって言ってますよね!?』


 海空さんによる恥ずかしさ混じりの悲鳴。

 どうやらテニーチェたち、海空さんをお嫁さんにしようとしていると認識されているらしい。


 少なくとも、あのメカには。



 そして海空さんは気がついた。


『……て、あれ? もしかしてお父さんのこれ、録音ですか……?』

 この海空迷宮に、マスターの声をライブラリとして保存してはいなかったはずだ、ということに。


 つまるところ、この声はあらかじめ開発者の手によって定められた指示に従って動いているに他ならないわけで。


『ご、ごめんなさいテニーチェさんっ。たぶんこれ、マスターが勝手に設定した、最後の防御壁です。

 えとその、おそらくめっちゃ強い気がします。万が一のことを考えて搭載されているはずなので、結構な技術が使われているはずで……』


 海空さんの言葉曰く、彼女の本体の元へ辿り着くためにはこのメカをどうにかしなければならないらしい。


「なるほど、わかりました」


 一つだけお尋ねしてもよろしいですか、とテニーチェは尋ねる。


『なんですか?』

「私たちの目の前にいるこの御方は、壊さずに一時的な機能のみを停止させた方がよろしいのでしょうか?

 それとも、本気で消しに行っても大丈夫なものですか?」


 返答までに、少し、間があいた。


 青い光が壁を流れ、メカの溝を白い光が駆けていく。


『――……できれば、壊さないでいただけると、嬉しいです』


 音量の小さなその答えは、どことなく揺れているような気がした。


「わかりました」


 そしてテニーチェは、メカに向き合う。


「皆さんは私の援護をお願いします。具体的には、あの御方の足を全力でもって止めてください」


 その間に、停止させる方法を探る。


 テニーチェの作戦に、第七団員一同は元気よく了承の頷きを見せた。

 きっと、以前までの、それこそテニーチェが団長となる前までの彼ら彼女らしか知らない人からすると、あまりの揃いように驚きのあまり息を止めてしまうんじゃないかってくらいに、皆の雰囲気が一体となっていた。


 テニーチェは、その光景に、少し、哀愁を含んだ微笑みを浮かべて。



「さて、行きますよ」

『むっすめはぁ! 渡さんぞぉぉォッ!!!!』


 動き始めたメカに対し、第七団員たちも地を蹴りそれぞれが走り出した。


 空間を、虹色の光が蹂躙する。

 割と最近のようで実はそれなりに時間が経っている、かつてテニーチェが団長の座についてから一番最初に取り組んだ任務での集団魔道の案内役を担っていた光と同じものだ。

 いつぞやの鍛錬時間に光を出してはアヘアヘしていた、副団長の光。


 パッと幾らかの――合計二十七の色と本数に分かれた光の帯は、メカに対して絡みつく。各々の魔道の軌道を表しているのだろう。

 副団長を除く団員たちは、それぞれがそれぞれの魔道を使わんとそれぞれの構えを見せた。


 事前の打ち合わせなんて、していない。

 だってメカは突如として現れたのであり、ましてや足止めを指示されるだなんて誰も思ってはいなかっただろうから。


 ――なぁテニーチェ、コイツら。


 頭の中に響く声。アージュスロと念話を繋いでいる故、聞こえてきたのだ。

 ちなみに理由は、メカの機能を一時停止させるための方法を調査させるためである。みんなが頑張っているのを後ろから眺めてお話しするためではない。


 ――いつの間に、ここまで連携が取れるようになっていたのでしょうかね。

 ――だよなァ。……あ、テニーチェ、見つかったぞ。

 ――……なるほど、わかりました。ありがとうございます。


 テニーチェは感謝の意を示すと、仮面に記された情報を元に、脳内で仕留めるための計画をパパッと練り上げる。


 ――ぉー、存分に感謝したまえぇ〜。


 なんかほざいている、現実世界では仮面の姿か短いのか長いのかすら微妙な姿しか取れない人工生物なんて無視である。



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