七 少数精鋭、されど中身は異なる
やっぱり宴はあった。
テニーチェは食べすぎて(美味しすぎるのが悪い)次の日まで胃もたれが続いた。
翌日、国王陛下に呼び出された。褒賞に何かもらえるらしい。昨夜の宴でそれとなく団員たちに聞いておいたときに訓練場の向上を求める声が多かったから、テニーチェは恭しく膝付きながらそう言っておいた。個人的にはより美味しいものをと求めたかったが、仕方ない。今回の依頼は第七王宮魔道師団として取り組んだのだから。
そうしたらさっそく工事に取りかかるとのことで、今日から十数日間は別の団の訓練場を借りることになり、今は団員たちの案内をしているところだ。借りる団は第二王宮魔道師団の訓練場。到着してみたら、なんかもう訓練場じゃなくて訓練施設だった。第七には大きめな円柱場の壁しかないが、第二のはまず一つの建物となっていた。しかも五階建て。かつ色んな器具付き。俺らのもこんな感じになんのか、なんてイグール・アトリボナは言っていた。たぶんここまで立派になるにはあと四回くらい世界破りをしないといけないと思ったことは、さすがに夢を壊すかと思い内緒にしておく。
第一王宮魔道師団が実力と数を揃えた団だとすれば、第二王宮魔道師団は実力を少数で揃えた、いわば第七と似ていて異なる魔道師団だ。どこが違うかといえば、所属している団員たちに難がないところだろう。要はまともな少数精鋭魔道師の集まりだ。集団魔道だって何十個も使えるらしい。
なぜ難があるかないかだけで訓練場が訓練施設になっちゃうくらいに扱いが変わるかって、それは集団魔道がどれだけ使えるかで明白だった。集団魔道が使えるということは、つまり集団で力を合わせての行動ができるということで。今回の依頼で使った第七の集団魔道は、一週間という短期決戦、言い換えれば団員たちか飽きないくらいの短い期間に脅しもかけながら無理矢理使えるように調教したような感じだから使えるようになったのだ。何度脇道逸れそうになった団員たちを本筋に戻したか。少なくとも両手両足では数えきれない。副団長の分を入れても無理だ。
第七はあくまで少数精鋭に注意書で『但し、単体魔道に限る』とかいう不名誉かつ見方によっては使い処を弁えればそれなりに役に立っちゃう立場だった。世界破りも今回が初めて。反して第二はこれまで何度か任されてきているらしい。そもそも世界破りが必要となること自体が珍しかったりもするが。
第七団員全員がほっくほくの笑顔で第二王宮魔道師団の訓練場ならぬ訓練施設を舐め見回し――もとい、眺めていた。一応ここを使う前に第二の団長様にご挨拶をと先に言い聞かせていたためか素直に歩いているが、多分言い聞かせ(脅しがいらなかったのは、恐らく本当に集団魔道が使えるようになったからだろう)ていなかったら、今頃ひゃっはーほっひゃーしてたに違いない。頭痛の種ばかりの第七王宮魔道師団、ようやく手綱を握れるようになってきたようだ。良き善き。
第二の団長は事前に聞いていた通り、二階の筋力を鍛えるスペースにいた。一定間隔で上げ下げされている、見たこと無い大きさのダンベル二つに呆けそうになる頭を振るって、テニーチェは話しかけた。
「おはようございます、クスッタロス団長」
「へい! はようっ!」
お相手は朗らかに笑いかけてくれた。
「アンタがおウワサかねがね第七の新団長サンかい?」
「はい。テニーチェ=ヘプタと申します」
「こりゃ丁寧に! オイラぁ、ムスーミュス=デュオ・クスッタロスよぉ!!」
ムスーミュス=デュオ・クスッタロス。
火属性と氷属性を得意とする、デュオの名を持つ正真正銘の第二王宮魔道師団の団長だ。
単体での戦力としては、魔道だけでなく物理的な武力も兼ね備えている程の実力者。現に目の前でテニーチェの二の腕五本分以上はありそうなモリモリ筋肉がダンベルの動きに合わせて緻密に動いていることからも、物理も強そうだと伝わってくる。噂では素手状態で討伐対象を殴り殺したこともあるくらいとのこと。だからといって魔道師団の長になる程故、魔道の手も劣っているわけじゃない。第七の団員では、いや第二の団員ですら、魔道のみでもまず勝てないだろうとされること。それが団長に求められる魔道師としての強さでもあるからだ。
デュオの名を授かっているということは、則ち筋力など無くともこの王国では上から数えた方が圧倒的に早い力を有しているということだ。
とはいえ、テニーチェとならばと問われれば、やってみなければわからないという答えにしか落ち着かないが。番号が小さければ小さいほど強い、というわけではない。あくまで王宮の団の長を務める称号として、ヘプタやデュオはある。
「訓練場をお貸しいただけ、本当にありがとうございます」
第七のコイツら、訓練できないと気が狂ってしまうかもしれないので、とは言わないでおく。
「んにゃあ、いいってことよ。第七も世界破りしたんだろ? っつうことはある程度実力もあるってぇことで。オイラたちのいい相手にもなってくれるってのは、ありがてぇことだい」
世界破りを成し遂げている団は、第一はもちろんとして、あとは第二と第四だけ。実は結構難易度高めでわりかし危険な任務でもあった。
その魔道師団の一つに、第七も加わったのだ。
「こちらも、第二の皆様とお手合わせできることを喜んでおります」
証拠に、イグールがうきうきした視線を送ってきている。
「ハハッ、いいねぇ! ま、アンタらの訓練場の工事も始まったばっかだろ? 楽しくいこうじゃないか!」
「え、ええ」
言っておくが、テニーチェは特に戦闘狂というわけではない。テニーチェは、戦闘狂じゃない、むしろ止める側。大事なことっぽいので、一応二回。
「んじゃ、さっそくオイラたちの訓練んとこ、使ってくれい。あとウチの団員と手合わせしてくれっと嬉しい」
「わかりました。少し失礼しますね」
パッと半回転して、第七の団員たちと向き直る。
「皆さん、ここからは迷惑をかけないよう、自由に訓練を開始してもらって大丈夫です。えっ、と……では、解散!」
なんか子守りみたいだとは思っちゃいけない。
はーいとか返事きたのは、あくまで信頼を得られたからだ。にっこり笑顔を浮かべるも、やっぱり仮面のせいで誰にも伝わらなかった。
そこから十数日、第七は第二の皆様方にお世話になった。
各々の力なら競り勝てるところもあったが、やっぱり集団としての力はまだまだ劣っている。一人一人が強いのも重要だが、チームワークもまた大事なのだと学べる日々になった――はずだ。……きっと。