六十八 迷宮に入る二コマくらい前
サボりました。
嘘です。
忙しくて書く時間取れませんでした。
……いえ、サボりました…………。はい。
ほんとにごめんなさい。
では、と海空さん。
『それぞれ四人ずつのグループに分かれてください。わたしの設計上の制限で、四人までしか同時に入ることができないんです』
「……と、いうと?」
まさかの制限に困惑を混ぜつつ、テニーチェは鸚鵡返し的に聞き返した。
前回の仮称:紫の世界での任務も人数制限が課されていたが、まさかの今回も縛りがあるのかもしれない。この感じだと、十中八九ある。
『わたしを作った人たちの安全を守るために備え付けられた機能です。いくら難解な機構を作成したとしても、人数で押し切られてしまっては元も子もないので』
果たして海空さん、論理的に切り替えしてきた。
『けど今回は、わたしの中心部に行くことが目的ですもんね。テニーチェさんたちから潜在的な要素も含め敵意はないよう感知してますし、制限は解除してもいいんですけど……』
どうやら出来なさそうなんだな雰囲気ぷんぷんに言葉は濁された。
ならばグループ分けしなければと、テニーチェは後方にいる団員たちに振り返る。
どうやって分けようかと考える。
前のは五人で一つのグループだったから、そのまま流用できないのが痛いところだ。ついで第七の人数が四の倍数じゃないのも面倒。紫の時みたいに第二から不足人数を補ってもらうこともできやしない。
さて、どうしたものか。
ふむふむテニーチェ団長さんは悩んでいた。ざっと一分くらい。
『……――危険度レベル零と判定、安全対策用の制限を解除』
「あ」
うだうだ思考を捏ねくり回していた団長を横目で見ていたヒュドアさん、なんとも言えない声を洩らす。
『待たせてしまってすみません。制限解除できたので、そこの入り口から順々に中に入ってもらえれば、中で合流できます』
「…………そうですか。ありがとうございます」
ちょいご機嫌斜めに返答したのはテニーチェである。
何って、考え事に気を取られすぎて唐突に降ってきた雨に対応出来なかった自分にイラついちゃってるのだ。
「えと、団長、大丈夫ですか?」
「俺、炎、出したほうがいいっすか?」
「……いえ、大丈夫ですよ。お気遣い頂き、感謝します」
ケッとでも言い出しそうな雰囲気を纏わせつつ、テニーチェは軽く手を振った。
声なき声すら無しに、テニーチェが乾く(体内の水分は除く)。
「やっぱりスゴいですよねぇ、団長の魔法って。
……あのでも、団長」
「どぉっなさったん、でっすのぉっ?」
えと、とヒュドアは言葉を続ける。
「団長って、闇属性使いなんですよね? でも団長って、どっからどう見ても光属性辺りの使い手に見えるじゃないですか。その、髪の毛、真っ白ですし。瞳は……あ、白いんですね、やっぱり。服は紫ですけど」
「つまりウィルフィーアさんは、私の外見が使用している魔道の属性と合っていないことに疑問を抱いている、ということですか」
「なっるほどぉ。言っわれてみっますと、不思議ぃでっすわねぇ」
「でしょ?」
ヒュドアはアウウェン・トルス=ブロントロスの頷きに軽く返して、また、視線をテニーチェに戻した。
「その、団長の友人の方が団長と真逆の性質を持っていらっしゃる、と仰っていたじゃないですか。なので、団長の外見は友人の方の特性を表しているのかな? と気になっていたんです。
あ、えっと、お答えになりたくないんでしたら、全然無視していただいて構わないんですけど、できれば答えてくれたらなって」
ようは実際どうなのかを答えてくれって言っちゃってるヒュドア嬢(ボクっ娘)。
テニーチェは特に機嫌を悪くした様子も見せず、仮面の奥で口を開いた。
「違いますよ」
「……え?」
ヒュドアの疑念の声を意に帰すことなく、テニーチェは続ける。
「少なくとも私の生まれ育った地では、体を動かしている側の魂の色がそのまま髪の毛と瞳の色に反映されていました。
ですので、今のこの体の特徴は、私の魂の色がそのまま反映されています」
「魂の色ぉ?」
「ええ、そうです。アトリボナさんも同じであると思いますよ。
魂の色は、直結して得意とする魔道の属性に影響する。魔道の色味、アトリボナさんの場合は火属性ですので、髪も瞳の色も赤色でしょう?」
「ん、まぁ、そぉだけどよ。髪の毛とかって、偶然この色だったってワケじゃなかったんすね」
ほへぇ、と感心したらしいイグール・アトリボナ。
そうこうしているうちに、実は裏で指示を受けて海空迷宮に入っていた団員たちも、テニーチェとヒュドア、アウウェンにイグールを除いていなくなったようだ。
「さて、行きますよ」
「あ、待ってください!」
「わっかりましたわぁ」
「うっす」
底面の出っぱったところへ向かう四人(と人工生物一体)。
『あの、テニーチェさん』
いざ入らんとしていたところで、上から声が降ってきた!
『先ほどから魂について語っていたみたいですけど、テニーチェさんの世界では魂が観測されているのですか?』
誰かと考えずとも、すぐに判別がつく。
この機械音声は海空さんだ。
「こちらの世界にはないのですか?」
『ありませんね。むしろ魂などというものは眉唾な概念だとされているくらいです』
そしてまさかのここに来て、世界が違うことによる常識の違いが表に出てきたのであった。




