六十四 物的者思考
お久しぶりです。
サボりすぎました。さすがに大罪です。
なのでひとまずは死ぬ気で毎日頑張ってみます。
(一応現状→実はバカみたいに忙しかったりして執筆する時間もまともに取れない感じではありますが、パソコンと携帯双方で執筆作業できるようにしたので、前よかは執筆時間を確保できるだろうという目論見です)
海空迷宮はテニーチェたちのいる高度からおおよそ二十メートルくらい下で止まった。
万が一を考えて高めに浮いたのは良い判断だったらしく、負傷者は誰一人として出ることはなかった。唯一、アージュスロが二十九人分の空気確保に早くも疲れを見せているくらいである。
温度の調節もアージュスロがやっているもんだから、いよいよ一度になすべき労働量が多すぎると言ったところで誰もが頷いてしまうかもしれない。逆にすごいと目を輝かせるかもしれない。第七の魔道師団員であるが故に。
とにかく、探し物は見つかった。
これを物と呼んでいいのかどうかはわからないけど。
「では事前情報に従い、出入り口に向かいましょうか」
テニーチェは団員たちに声をかけると、そのまま魔道を操って自身の体と団員たちを操っていく。
無論、強制的にである。そこに自由は無いのであった。
そんなこんな、普通ならブーイングでも起きそうな唐突の移動開始にも第七たちはなぜか喜びの声を上げている。何故かと思って耳を澄ませていたら、案の定すごい魔道に触れているからだった。第七はやっぱり第七で、というかむしろ喜んでいる理由が別のものだったら怖い。多分明日、槍が降る。ここ藍の世界は、まだ未開発部分も多い故、絶対に降らないとは言い切れないところがなおさら怖いところである。
団長様による完全キャリーで進む一行。雲の上まで上昇していたため、まずは雲の下に出るところから始まった。
ぐんぐん高度を落としていって、やがて雲の切れ目から海が覗いた。上空から見下ろしても、やっぱり海以外には何も見えなくって、空中や海中に生き物がいる様子すらなかった。事前に聞いていた通り、本当に生き物の一匹すらいないようだ。
テニーチェ的感性からすると、全く生き物が生きれませんって環境どころか、むしろ生きやすそうな気候をしているような気がしている。温度も上空に行きすぎなければむしろちょうどいいくらいだし、風だって穏やかだ。
一度生き物が滅びたというなら、滅びた理由が災害系統ではなさそうなことだけは今の段階でもわかったことである。
さて、と一息吐きつつもテニーチェは海空迷宮の入り口を探す。
一緒に探してくれているのは比較的まともっぽいヒュドア・ウィルフィーアと標高が下がってきてちょっと余力の出てきたアージュスロのみである。他の団員たちは皆あちらこちらを見渡していた。多分、各々の興味があちらこちらに向いているからなんだろう。
協調性のなさが表れているような気がしなくもないテニーチェであったとさ。
そんなこんな、探し回ってはぐるりと海空迷宮を一周した。
入口は、なかった!!
「……実力行使でぶっ飛ばせ、という意味でしょうか」
「ぉ! なら俺、燃やすぜ!!」
テニーチェのハエの飛んでる音くらい小さな呟きに反応したのは、謎にノリノリなイグール・アトリボナだった。
なんでか知んないけど、水に濡れている。
「…………アトリボナさん、どうして濡れてらっしゃるのですか?」
「ぁー、なんか俺の頭上にだけ雨が――団長さん、上ッ」
何かと思って見上げてみる。……なるほど。
「…………は?」
視線の先にあったのは、黒雲だった。
ドス黒いそれは、少しもしないうちに大量の雨粒を吐き出し始める。
言うまでもなく、雨だった。それも局地的すぎにも程がある嵐だった。
ちなみに風はぐるぐるぐるぐるテニーチェのいる局地で渦巻いている。
――そっと、テニーチェは口を開いた。
「――――」
何の変哲もない、いつもの声なき声。
今まさにテニーチェに触れんと手を伸ばしていた雨粒たちが、一斉にテニーチェのことを避け始める。
「……ぉお〜」
イグールが感心しているような残念がっているような声を洩らす。
団長さんの魔道技術に感嘆は覚えているが、それはそれとしてびしょ濡れになって欲しかった気持ちもあったのかもしれない。目上の人に限らず他人が不幸を被る場面というのは、往々にして謎な愉快さを生んでしまう事実はあるのだろうか。
「団長、なんで雲、消さなかったんですか?」
横から尋ねてきたヒュドアに、テニーチェは事なげに答えた。
「こういった一部分のみの天候変化というものを下手に操ることが、後に大災害に繋がる事例はよくある事ですから」
特にまだまだ未知が未知満ちしているばかりの藍の世界において、万が一の引き金を引くことはあまりに危険が過ぎる。
まぁ、国の方からやれと命じられたらやるっきゃないのがテニーチェの立場でもあったりはするが。
あくまで今回依頼されているのは、藍の世界について調べること。
もし先の雨をテニーチェが蹴散らすなり消し去るなりして世界を壊してしまったら、調査対象そのものが無くなってしまうという取り返しの付きよう値零の事態に陥ってしまうことは火を見るより明らかなる事実だ。
「アトリボナさん、濡れたままでは風邪を引きますよ?」
「あー……俺、細かい作業、苦手なんすよ」
「え? なら自分の近くに炎でも出せばいいじゃん」
しらり目を逸らしたイグールに、ヒュドアの的確すぎる一撃が刺さる!!
「……たしかに」
そしてイグール選手、納得してしまったぁっ!!!
と、いうわけで。
火属性使いのイグールは自分の近くに熱そうな炎を生み出す。しばらくもしないうちに、短い髪の毛は乾いたようだった。
服も水滴が滴らない程度にはなったようで、風邪を引く心配もちょっとは減った。全くとは言えないのが現実の厳しいところである。
「さて、迷宮の入り口探しを続けましょうか」
そうしてテニーチェが動き出そうと体重を移動させた瞬間だった。
『………………………………ぁ』
大気が、震えた。




