六十 ちょっとした噛み合わなさ
ちょい短めです。
「え、でも友人なんですよね?」
言っている意味を理解できないと訝しげに首を傾げるヒュドア・ウィルフィーア。それもそのはず。普通に考えるならば、友人というものは直接会って、話して、他人で単なる知り合いだった関係が自然と友人という名の関係に変化していくことで生じるもののはずだから。
昨今の魔道技術の目覚ましすぎる発展による不特定多数と関わりを持つことができるようになったにはなったけれど、それにしたって一回くらいは対面で会ってたっておかしくはないはず。
なのに団長は、全く会ったことがないときた。
「ええ、友人です。普通の友人関係からはちょっとだけずれている、私にとっては唯一無二たる存在ですね」
「……つっまりはぁ、だんちょぉ様ってぇっ、何かの道具でしかぁ連絡のとぉっれないご友人をお持ちでっしてぇっ?」
「はい。私と友人は、彼女の自作した道具を使わなければ、話すことすらできません」
たぶんそれ、普通の友人関係からちょっとずれてるどころじゃないくらいにずれてるんじゃないか、と思ってしまったヒュドアであった。
アウウェン・トルス=ブロントロスは普段と同じように話しつつ、しかれどアージュスロが目の前にいるってんのに何やら真剣に考え事をしてながらテニーチェの話に耳を傾けていた。
「団長は、友人さんの姿を見たことがないってことですか? 遠くにいすぎて会いに行けない? ……でも、正直団長くらいの力があるなら職にもお金にも困るわけない、はず」
「そうですね。お金には困っておりません。休日には好きなものを好きなように食べれるくらいには稼げておりますから」
――それと、とテニーチェは言った。
「彼女の姿を目にしたことはありますよ?」
えっ、だなんて虚をつかれた声を上げたのは、ヒュドアだけじゃなかった。
「どぉいう、こっとでして……?」
「なんで、だって会ったことない――待って。そもそも団長は、なんでこの話をしているんですか?」
震える声で、ヒュドアは疑問を音にする。
「ボクが知りたいのは、ボクのい、あ、兄を起こすための方法で、きっと団長が話してくださってる内容にもボクが知りたいことにたどり着くためのヒントになってるんだろうってことはわかります。でも、なら何がどうヒントになってるのか、……が」
少女の中で、疑問が疑念に変化していく。
「まさか、そんなわけ……でも、じゃなきゃ団長がわざわざ話してる理由が、わからなくなる」
ヒュドアの独り言を耳にして緩慢に頷いたのは、アウウェンだった。
「なるほぉどっ、つぅまりはだんちょぉ、二重人格かなにかぁ、でして?」
「いえ、違いますよ?」
そしてテニーチェは二人の悩み抜いた末の答えを一刀両断した。もうそれは呆気ないくらいの清々しさを纏ったものだった。なんか悲しい。
「私は二重人格ではありません。ですが、二重人格ともいえるのかも、しれませんね」
哀しげに上がった口角に気付いたのは、アージュスロだけだった。
「私には姉であり妹でもある存在がいるんですよ、ウィルフィーアさん」
そういえばこの作品も十万字を超えていたみたいです。文庫本一冊分らしいです。
なんてことだ。
今後も毎日投稿できるよう頑張って参りますな次第でございます。




