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仮面をつけた王宮魔道師団の長  作者: 叶奏
未知探査@海空迷宮
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五十九 魔力回復薬についての世界的な認識



 転移門があった場所からテニーチェの書斎までの道のり、実は結構あったりする。

 だって転移門があるのは王都郊外。対して第七の拠点があるのは王都の中心と呼んでも過言ではないってかむしろ中心そのものたる、王宮の中に位置しているのだ。なんで実は割と遠い。徒歩圏内ではあるけど、意外と時間がかかる。


 そんなちょい遠の道を歩くヒュドア・ウィルフィーアの顔は終始緊張しっぱだったし、ほんのりヒリヒリしてなくない彼女の雰囲気に圧されて、テニーチェ自身もちょい緊張しちゃっていた。

 アウウェン・トルス=ブロントロスだけはうっきうきのうっきーだった。一人だけ無駄に足が軽くて、かつ顔もにやにやほやほやの焼き芋くらいには柔らかいものだった。

 第七の連携できなさというのは、もしかすると普段周囲の空気に影響されずに自分を保っていられる性質的なのをみんなが持っているからというのに由来するのかもしれない。少なくとも、ロコ・パートイーサはテニーチェの都合お構いなしにえっへへしながらくっついてきていた。

 紫ばかりの世界も、今では良い思い出であるなんて言える程の時間はまだ経っていないし、テニーチェからすると良い思い出でしただけでは済まされない苦味がたくさんあった。主に紫の植物たちによるもので。あとロコの唐突たるくっつきによる呼吸の苦しさに由来することで。



 そんなこんな、テニーチェたち一行は第七王宮魔道士団の執務室に到着したのであった。



 テニーチェは二人を執務机前にあるふかふかの横長ソファに横並びで座らせると、自分は二人の真向かいに腰をかけた。


「さて、私の友人とアージュスロについての話でしたね」


 そうして冗談を交えることもなく、そっと息を吐き出した。

「前にも言った通り、アージュスロは私の友人が作った人工生物です。おそらくは非常に珍しい、感情含めた己の意志を持つ作り物です」


「おぅ、そぉだな」


 テニーチェの説明に、へろぉっとした様子で机の上で寝そべっているアージュスロが細くも長くもない腕を上げて同意を示す。


「ウィルフィーアさんなら、アージュスロの特異性についてもわかるのではないでしょうか? お兄様を起こす方法を探すための一手段として、おそらくは魔道技術による最先端の道具についても調べてはいるのでしょう?」

「調べてます。ボクが知らないだけかもしれませんけど、たぶんアージュスロさん、今の最先端より進んだ存在ですよね」

「さぁ、どうなんでしょう。正直なところ、私はあまり詳しくないのでわかりません」


 ただ、とテニーチェは続ける。


「彼女が常軌を逸する才能の持ち主であったことは、知っています。彼女に対する評価はよく耳にしましたから」


 例えば、今の技術では到底作ることの叶わないとされている、魔力を回復させる薬を作ったりとか。まぁ、彼女が作ったのはあくまでテニーチェ専用の魔力回復薬であって、広くみんなが使えるという訳ではないのだけれど。

 それでも、たとえ使える人がただ一人しかいなくとも、世界中どころか世界を超えての称賛を受けたっておかしくはないくらいにスゴいことなのだ。


「……魔力の回復薬を作ったって、本当のことなんですか?」

「わったくしでもその希少性はぁっ、わっかりましてよぉっ!? そんなっ、世界が変わりかねないぃようなことぉじゃぁないですかぁっ!」


 魔道を扱う者として、魔力の枯渇は常に付き纏ってくる非常に厄介な存在である。

 そもそも魔力が枯渇しない、つまりは無限にあるのなら、正直ゴリ押しでどんな魔道だって使えちゃう。そりゃまぁ、本人の技量によっては相当な時間がかかるのかもしれないが、一応机上の空論としては可能なのだ。


 所詮魔道とは、想像と魔力さえあれば誰にだって使える技術なのだから。

 魔力を操作する能力とかその他諸々魔道を使う為に習う事柄など、結局は消費する魔力と必要とする時間といったコストパフォーマンスを考えたら必要となってくるよねってだけで。


「ええ、本当のことです。実際に私は彼女が作った魔力回復薬に、よく助けられておりました」

「つまり団長がおっしゃりたいのは、団長の友人さんがすごい発明家であるってことですか? 魔力回復薬程度、大々的に発表するようなものでもないって考える人ってことであってますか?」


 長年探してきてようやく掴んだ手がかりに焦りを覚えているのか、ヒュドアは前のめりになって己の団長に問いかける。


 果たしてテニーチェは、歯に衣着せない表現のそれに特段の感情を示すこともなく、口を開いた。


「その通りです。正確には、彼女は趣味以外、基本的に依頼を受けたものを作っていた故、大々的に発表などできない立場にいた、ということではありますが……まぁ、彼女のことですし、本人も名声には興味がなかったのではないかと思いますよ」

「あ、そか……名声に興味ないなら、発表なんてしないのか……」


 テニーチェの返答を聞いて、ヒュドアはムムッと唸る。

 加えて、立場で発明したものの発表を伏せられてしまうくらいに実力があったとも捉えられなくはない。


「残念ながら、私から彼女の作った物の詳細について語ることはできません。そもそも私自身が理解している訳ではないので、満足に説明することもできないでしょう。ですのでここでは、私と彼女の関係について話すとしましょうか」



 実は私は彼女と実際に会ったことはありません。


 テニーチェは嘘を吐いている様子など微塵もない声音でもって、そう告白した。



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