五十六 闇色のヴェール、ゆら揺ら
サボりすぎました。ごめんなさい。
あけましておめでとうございます。
「それで」
国王陛下は続ける。
「テニーチェちゃんは何を聞きたいのかしら?」
謁見室の絢爛な雰囲気は全くもって変わっていないはずなのに、なんとなくテニーチェは気圧される雰囲気が増えたように感じた。
きっと気のせいなのだろうと、とりあえず思考の海に沈んでいる暇もないのでそう考えておくことにしたのであった。
テニーチェはヒュドア・ウィルフィーアの果成之集落での行動を思い返しながら口を開く。
「以前彼女は私の持っている人工生物に大変興味を示しました。彼女の雰囲気が、純粋な研究員が研究対象をを見たときに催すものとはまた異なるものを感じたのです」
テニーチェの脳裏にふと彼女のことが過ぎる。最初の頃はとても純粋な瞳で研究を進めていたが、いつからか剣よりもなお深い光を瞳に宿し、任務を担っていたらしいから。
きっとそれは、先日のヒュドア、並びに昨夜の彼女の姿と似ているのではないかと思ってしまった。
「なるほど、それで?」
国王が続き話すようにと促してくる。
「先程の報告では特に必要はないかと判断し申し上げなかったのですが、実はヒュドア・ウィルフィーアが、私が果成之集落についての質疑応答を始める前にいくつか質問をしたのです」
「つまりでテニーチェちゃんはそのような邪魔が今後ないように、ヒュドアくんについていくつか知っておきたいってこと?」
テニーチェはわずかにうつむく。
「任務に支障を来さない範囲でなら、正直なところ、全くもって構いません。しかし今後彼女が求めるものが急に目の前に現れた時、彼女の以前二回の行動から察するにほぼ間違いなく危険にな状況に陥るのではないかと考えております。そうなった場合、私の雇用の際に交わした契約の一つである団員の安全の保護を破ってしまう恐れがあるのです」
テニーチェは第七の団長になるにあたっていくつかの契約を国王並びにナミスシーラ王国そのものとも交わしていた。いくつもいくつもあるわけではないし、人の上に立つ者としては当たり前のことばかりでそこまで厳しいものでもないのだが。
その中の一つに、テニーチェの部下となる団員たちの安全を守ることが含まれているのである。
「確かにそれは困るわ」
国王陛下は闇色のヴェールを揺らしながら嘆息する。「ヒュドアくんは戦闘狂が多い第七魔道師団の中でも実力自体は割と低い方だからね。万が一があったときに危険であることは、確かだろうし」
きらびやかで最低限には広い部屋の中に沈黙が落ちる。
近衛兵たちは、やはりナミスシーラ王国の顔にも相当しえなくない存在であるためか、非常に鍛錬が積まれているようで物音一つ立てることすらなかった。
けれど。
ナミスシーラの十三代目はテニーチェにしっかりと視線を向けて言った。
「テニーチェちゃんはヒュドアくんから何も聞いていないのよね?」
「ええ、まぁ。本人が氷属性を得意としている魔導師であることくらいしか」
「ならやっぱり私の口から言うことではできないわ。まずは本人に聞いてみなさいな」
「……そう、ですか」
国王陛下が口を閉ざすということはそれだけ大きな内容であるのか、あるいはテニーチェが憂慮しているほど問題にはならないと国王陛下自身は思っているのか。
今のテニーチェにはどっちらが正解なのかはわからないが、ひとまず今回はここで引き下がる他に選択肢はなかった。
「他になにか聞きたいことはある?」
国王からの問いに、テニーチェはいいえとしっかり声に出して答える。
そう、と国王陛下はまた、闇色のヴェールを揺らした。
「じゃあ、引き続き合併任務、頼んだわよ」
「畏まりました。失礼致します」
跪いた状態でテニーチェは一礼すると、来たときと同じように、紫の世界の本部テント前に転移の魔道で戻らんと呪文を唱えた。
最近どうしても書く時間が取れないため、三、四ヶ月ほど連載をお休みさせていただきます。
楽しみにしてくださっている方には大変申し訳なく思いますが、ご理解いただけると嬉しいです。
また時間に余裕が出次第再開しますので、そのときにはまた、宜しくお願い致します。




