五十四 へたりと座り込んだのは
四日ぶりです。
お待たせてしまい、ごめんなさい。
「是也」
紫花弁持ちの果成之集落集落長ことぱーぷる・ちゃんは肯定の意を示す。
「又、我、集落之長ヲ辞職ス時、我ガ精神ハ再ビ人間之体ヘ戻ル」
「じゃ、じゃあ、ぱーぷる・ちゃん様の体は今もどっかで保存してあるってことなんですか?」
「是也」
「もともと使ってた体に、戻るんですよね?」
「是也」
ひゅっ、とヒュドア・ウィルフィーアは息を吸い込んだ。目元はふるふると驚きに見開かれていて、呼吸もどこか荒いようにうかがえる。
「あ、ったん、だ。ようやく、見つかった……っ」
その場にへたり込んだヒュドアと、背を擦るテニーチェ。
「ウィルフィーアさん、ちゃん様への質問はもう宜しいですか?」
「っ、あ、ご、ごめんなさい。勝手に突っ走っちゃって」
「いえ、どちらにせよ聞くことになったかもしれませんし、お気になさらないでください」
何か理由があるのだろう、とはさすがのテニーチェにも分かる。今はぱーぷる・ちゃん様一行と対面しているから、後で本人に聞いてみようか。無理そうなら、個人情報なんちゃらに反しない限りで国王陛下にでも。両方に尋ねてしまうのもありかもしれない。
「テニーチェ殿、他ニ質問ハ?」
「まだあります」
ようやく驚愕から抜け出せてきているアウウェン・トルス=ブロントロスに目配せをして、テニーチェは続ける。
「メモを取りながらでも宜しいでしょうか?」
「無論」
許可は取れたので、ともう一度アウウェンに視線を送って頷く。ナップザックから手帳とペンを取り出すアウウェン。伯爵令嬢としてわりとしっかりめの教育を受けてきている彼女は、恐らく、ここにいる誰よりも字が上手い。単に本人の性質だとも言えなくはないが。書くのを速く出来るのは、遺伝の云々ではなく、幼い頃から文字を紙に書いてきたからだろう。
テニーチェもナップザックから一枚の紙をつまみ出す。さっと目を通しながら、口を開いた。
「ではまず、この世界にはちゃん様方以外にも知的生命体がいるのか――……」
☆☆☆
率直な感想で、紫の世界は虹の世界よりも技術の発達は遅れているように思った。だが虹の世界と同じような魔力が大気中に存在し、故に魔法というものも存在している。もっとも、こちらの世界では植之奇跡と呼ぶらしいけれど。
紫の世界では、植物が『半意思』を持っている。
半意思とはその名の通りで、紫の世界の植物は全て、人間含む知的生命体の意思よりかは弱いが、無いとは言い切れない程度の意思は持っている。
ちなみにテニーチェが食べちゃった木の実だが、木の実さんたちを実らせていた木々は苦味を加えて十分楽しんだから特に問題は無かったらしい。というより、いくら意思を有しているからと言って、植物は生きるために食べられることを是としている存在。それが後世の子孫へ繋がり、かつ食べた人の気持ちに変化を起こせるならば、食べられることに否定の意見はないのだという。むしろ肯定的だと、ぱーぷる・ちゃんは言っていた。
何故そこまで詳しく分かるのかとテニーチェが聞くと、実に単純で明快な答えが返ってきた。
「我、植物也」
そりゃそうかとテニーチェは思わず頷いてしまったのである。




