五十二 (吐き捨て)
自己紹介、ではなくテニーチェによる纏めての紹介はつつがなく進んだ。
ヒュドア・ウィルフィーアの第七にしては真面目な挨拶も、イグール・アトリボナの粗暴よりな言動も、アウウェン・トルス=ブロントロスのやっぱりいつもよりウッキウキ度の増した声のリズムも、ロコ・パートイーサのえへへえへえっへへへも、翻訳機を通せばきっと変わらぬ挨拶になっているはず。初対面で攻撃をぶっ放しちゃったことも相まって、出来るだけシートニア・プリューマ、シートニイ・プリューマ姉弟(妹兄?)にこれ以上変な印象はもたれたくなかったのだ。主に疑惑心だったり敵対心だったりなどを増加させる原因になりかねないから。
それからもテニーチェ対シートニア姉(妹)との会話は翻訳機越しにしてはテンポ良く弾んだ。シートニアさんたちもここ以外に世界がある事自体は知っていたとのことで、テニーチェたちの任務についてもしっかり理解してくれていた……はず。少なくとも彼女の言葉を聞いている限りでは。
ちなみに、ロコによる急すぎる光線攻撃については、ここらの人は夜頻繁に遭遇するらしいバケモンのこともあって、危機感が高いことは悪いことじゃないとかで納得したみたいだ。昼間は全くの無害な森と言っていたので、探索中にバケモンと出会わなかったのはまぁいつも通りのことなのだろう。なんせテニーチェとシートニアが話している間に三回ほど襲撃があったくらいだ。パッと観察した感じ野生動物とはまた違った奴らっぽい。だがシートニアたちの食料の一つでもあるらしく、黙ったままのシートニイがいそいそ回収していた。
コイツらについても詳しく聞いておきたいが、テニーチェたちは先にやらなくてはならないことがある。
「では、また明日の夕方にここで落ち合いましょう」
「承知。日没・前・此処・集合。私・長・報告、テニーチェ=ヘプタ・同様・正解?」
「はい。私も探索の本部となっている場所へ報告して参ります」
「同意・感謝。再開・明日・私・退去。シートニイ・行動・開始」
「……肉・重量・過多」
「沈黙・歩行・使役」
「…………不満」
「歩行・使役」
「………………………………(吐き捨て)」
バケモン三体分の死体を背負ってテニーチェたちに背を向けたシートニイと、暫定弟を責っ付きながら紫森の暗闇に消えていくシートニア。二人の姿が見えなくなってから、テニーチェは団員たちの方向へ視線を向けた。
「それでは私たちも、移動を開始しましょうか」
「了解〜」
「おっす」
「了解っでっすわぁ」
「えへっ、おっけぇ〜、えっへへぇ」
「ぁ……オレっていつまで愛玩道具でいりゃぁ…………」
アージュスロの嘆きは、本人含む全会一致によって無視された。
転移門直近の本部テントに帰ってきたテニーチェは、ヒュドアにイグール、アウウェンとロコに野宿準備を頼んで報告に向かう。
第二団長ムスーミュス=デュオ・クスッタロスは眠そうに目を擦っていたも、報告に来たテニーチェの一言目でぱっちり瞼を開けたのは、やはり世界の一翼を担う王国の魔道士団の長の一人だと言えるのかもしれやい。




