五十一 それもこれも翻訳機のせい
数日サボってしまいました。ごめんなさい。
また今回も短めです。
「馬鹿」
男性が女性に引っ叩かれる。
「今・話・相違。貴様・馬鹿・沈黙・使役」
相も変わらずちっかちかしている紫色の光。そういえば備品としてこれを渡された時、この翻訳機は相手の話している意思を単語に変えるとかなんとかで、ちょっと相手の話している意味が分かりにくいかもしれませんとか言ってた気がする。魔道技術もまだまだ発展途上なのだ。発展が終わるのは、人類全てが滅んだ時か全人類のやりたいことを叶えちゃった時だろうけど。
まぁつまるところ、この翻訳機、言語を問わず何でも聞き手の知ってる言語に訳して聞こえるけど、話し方が変になって聞こえるよということである。
テニーチェは翻訳機と一緒になって渡された翻訳例を予め見ていたので、相手方の話し方について驚くことはなかった。翻訳例を見た時に、〇〇・使役で「〇〇してなさい」となっていたのにはほへぇと思ったが。
「申し訳ありません。こちらの翻訳機の性能上、話し方が幾らか変に聞こえてしまうのです」
「理解」
女性が小さく頷く。男性は引っ叩かれた頭を抱えていた。
「私・名前・シートニア・プリューマ。男・双子・弟・シートニイ・プリューマ。良好・依頼・テニーチェ=ヘプタ」
「相違! 私・兄! シートニア・妹!!」
「留意・無・懇願。貴様・沈黙・使役!」
また男性、シートニイ・プリューマは姉(妹?)のシートニア・プリューマからぶっ叩かれていた。
テニーチェのそばに控えていたヒュドア・ウィルフィーアが小さく、双子……と呟く。翻訳機までは届かなかったようで、シートニアとシートニイは特に反応を示さなかったが。
「こちらこそ、宜しくお願いします。プリューマ様方」
そうしてテニーチェの苗字呼びも健在であった。
「テニーチェ=ヘプタ・他四人・別世界・由来・来訪・正解? 理由・探索・正解?」
「ええ、合っております」
「急・攻撃・理由・教授・懇願」
「私の監督不行き届き故です。申し訳ありません」
「意図・無? 危険・感情・故・反射?」
「はい。ほら、パートイーサさんも謝ってください」
「えへっ、ごめんなさいなんだよ、えっへへ」
「……理解。未知世界・危機感・向上・仕方無」
双子と聞いて体を固めたヒュドアの後ろ、イグール・アトリボナは会話内容についていけてないようで目をパチクリさせていた。それもこれも翻訳機の翻訳が分かりにくいせい。
アウウェン・トルス=ブロントロスはアージュスロの腕をぐにぐにしている。
「是非・他四人・名前・教授・懇願」
シートニアの言葉に、テニーチェは頷く。
「畏まりました。では、私の近くから――」
紫の木々はさわわさわわと風に葉を揺らしていた。




