五十 拳大より二回りくらい大きな四角い機械
今回短めです。
彼と彼女はナミスシーラ王国の王宮魔道士団の制服を着ていない。
虹の世界からは今、ナミスシーラから依頼を受けた魔道士しかいないというのに。
ようは、そういうことだ。
そういうことなのだ。
「……誰だ、てめぇら」
イグール・アトリボナはいつもよりちょっとばかし悪要素強めな口調で凄む。火の点いたランタンを腰のベルトに下げて、両手でもって応戦できる態勢を築いている。このランタン、外に熱を逃さない構造になっているので、直接触ったりしても熱くないのだ。無論、安全性にも気を遣われていて、多少乱暴に扱った程度なら火傷もしないし火も消えない。ぶんぶん振り回しまくったら流石に消えるらしいけど。
「現地人なんじゃないの?」
片手にランタンを持ったままのヒュドア・ウィルフィーア。もう片方の手は唐突に現れた二人組から死角になる位置にそっと隠しているところから、万が一に備えていそうなことは分かった。
そんな火属性と水属性の様子を見ていたテニーチェは、えへへっとロコ・パートイーサにくっつかれた。されど今は引っ剥がす余裕も無いのだ。
「えへへぇ、だんちょ〜、もっかい攻撃しちゃめぇ? えっへへへ」
「……パートイーサさんは大人しくしていてください」
いきなりヤバそうな光線ぶっ放す人材は、なるだけ安静に放置しておくことにする。たとえそれでテニーチェの動きが多少阻害されていたとしても。
「団長様、こっういっうときはぁ、確かぁっ」
アウウェン・トルス=ブロントロスの声、微妙にウキウキ度が上がっているように聞こえた。もしやしなくとも新たなる強敵との邂逅に胸を高鳴らせていそうだ。
ロコのせいで動きづらいも、ナップザックを下ろして一つの機械を取り出す。イグールと同じく腰にランタンをぶら下げたまま、ずりずりロコを引きずって前に歩を進めた。
警戒心からか沈黙を守り続けている二人から数歩分離れたところで止まると、地面に拳より二回りくらい大きな四角い機械を置く。カチッと電源を入れた。
「突然攻撃してしまい、申し訳ありません。私はテニーチェ=ヘプタと申します。この世界の隣にある虹の世界という世界より、探索の命を受けて参りました。お二人の名を伺っても宜しいでしょうか?」
ちかちかと紫色に瞬く四角な機械。この紫は多分、たまたまだろう。
どことなく似通った青年男性と青年女性は大きく肩を震わすと、互いに顔を見合わせる。少しの沈黙の後、男性の方が口を開いた。
「貴女・話・方法・変」
機械こと意思変換による翻訳機(範囲は規定の空間内)はやっぱり紫色の光をカチカチさせていた。




