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仮面をつけた王宮魔道師団の長  作者: 叶奏
世界破り@名も無き小さな世界
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五 集団魔道、いざ訓練



 準備とはいっても、訓練場の全体像を空中から見て確認し、今日予定している訓練の最終的な細かいところをつめるということのみ。色んな魔道を駆使しながらペンで紙に書き込んでいく。時間別にやることを纏め終わった頃には、団員全員が訓練場に集まっていた。昨日の魔道(脅し)がきちんと効いていたようである。


「皆さんおはようございます」

 テニーチェが拡声で上から声をかけると、団員皆上を向いて各々挨拶をしてくれた。挨拶っていいなぁ、なんて思いながら、テニーチェは言葉を続ける。

「さっそく、集団魔道の訓練を開始しましょう。まず最初に概要を説明してから、一人一人使う魔道の詳しい説明をして回ります。おそらく午前中はここまでで終わってしまいますので、一度昼休憩を挟んで午後に備えましょう。あ、午後の説明はまた後程行います」

 あらかじめ伝えることを決めてあったため、すらすらと説明できた。テニーチェは副団長を呼ぶと、一枚紙を渡す。魔道で暗くした空にこの紙を拡大して映してほしいと頼んだ。少し首を傾げた後にはいはいとすぐ魔道を発動して団長様のお望みのままに表示出来たのも、やはり実力はたしかにある第七王宮魔道師団の副団長だからなのだろう。虹であへあへしていても有能であることにはかわりないのだ。


 魔道技術による魔道具レーザーポインターで概要を伝える。質疑応答まで終わらせ、テニーチェは満足そうに頷いた。とはいえそんな満足そうな顔も、顔全部を覆っている仮面のせいで他の人には全く見えていなかったが。

「では次に、個人への魔道説明に移りますね。今の概要説明と併せて考えていただければ、自分がどのような立ち位置で集団魔道を構成するのかも大まかにわかっていただけると思いますので」

 副団長さんにはお礼を言って、映像の魔道を切り下へ戻ってもらう。団員たちは、揃いも揃って瞳を輝かせていた。集団魔道といえば、同じ属性で同じ魔道を組み合わせて威力の底上げをするというものが一般的なもの。亜種で違う魔道を組み合わせるものもあるにはあるが、それも基本的には同じ属性を用いる。

 だからこそ、まるで第七のために用意されたかのごとくバラけた属性の魔道、しかも一人一人の特技を生かした集団魔道に今までにない胸のときめきを覚えているのだろう。概要を聞く限りでも、この集団魔道が緻密に練られかつきちんと纏め上げれば威力も底知れないものになることは理解できた。加え、おそらく今後一人一人が強くなっていくのと同時にこの集団魔道も威力を増していく。

 集団魔道も、うまく構成を練ればそれぞれの実力に伴い乗算式に強くなるという言葉は本当なのかもしれない、とここまで聞いてイグール・アトリボナの中でようやく現実味が湧いてきた。同時に、あの団長はやはり強者だと実感する。単体魔道のみの実力も、自分より高い。その上三十人弱による集団魔道の構成を練れる頭もある。国王様の人選は間違っていなかったようだ。


 一人一人に細かく使う魔道について教えていく。その間すでに説明を受けた団員はもれなく集団魔道用の魔道の訓練を始めていた。これまで以上の高みへ羽ばたけると確信を持って頷けるからこそ、皆一様に期待をこめて訓練をしていた。まだ説明を受けていないものは、早く自分の番が来ないかと願いつつも各々の魔道の訓練をしている。


「あ、では次。ウィルフィーアさん」

「はい!」


 ボクッ娘ことヒュドア・ウィルフィーアは跳ねるような笑顔でテニーチェに近寄った。彼女の周囲が冷えているのは、今の今まで水属性の魔道を使いまくっていたからだろう。テニーチェは手元の紙を見ながら、紙を持っていない方の手で拳大の空間に微粒子の水滴の集合体を作り出す。

「ウィルフィーアさんには正確な威力速さ範囲内でのこのような水属性を魔道で発動できるようになってほしいです」

「細かい作業、ってことですね」

 考える素振りを見せ、ヒュドアは納得したかのように口角を上げた。

「局部的な温度調整と方向性の一員になれ、ってことですか。うーん、結構重大な役目担ってそうだなぁ。まぁ、みんなそうなんでしょーけど」

「理解が速くて助かります」

 楽しそうでなにより、とテニーチェは心の内で微笑む。実は表情にも出しているが、毎度のごとく仮面で外には見えていない。


「なにか質問はありますか?」

 テニーチェが尋ねると、首を横に振ろうとしたヒュドアがふと思い付いたかのように口を開いた。

「それぞれどれくらいの範囲で操れればいいのか、最小と最大でいいんで教えてもらってもいいですか?」

「それぞれ、というのは威力速さ範囲、という意味ですね」

 こくこく、とヒュドアは頷く。

「わかりました。では最小から、手元を見ていてください」

 まずは威力と速さ。懐から取り出した反古紙に向けて吹雪を放つ。ほふっと柔い音すら立てずに反古紙はほんのりと湿っている。

「範囲的にはこれくらいです」見えやすいようにと闇色を背後に置き、水の微粒子をほんの数粒出現させる。

「なんか……すっごく細かいですね」

 あきれた口調とは裏腹に、ヒュドアの顔はきらきらと輝いていた。

「でも、すっごくボク好みです」

 彼女の瞳は早く早くとテニーチェを急かしているようにも見えた。

「最大の方なのですが、申し訳ありませんが私の実力では全てお見せすることはできません」

「へへっ、つまり水属性専門のボクにしかできないってことだね」

「そうなります。ですので、規模感についての説明のみでよろしいですか?」

「へっへーん。お任せあれ、ですよ!」

 なんとも頼もしい返事にまたテニーチェは微笑みを浮かべ、残りの説明も終わらせる。


「では、よろしくお願いしますね」

「任せてください!」


 第七は端から見れば難のある魔道師たちの集まりだ。

 だからこそ、なのか。

「これなら集団魔道も難なく身に付けてしまいそうですね」

 楽しみだ、とテニーチェは思う。

 ひらりと視界に入れたのは、集団魔道の構成について詳しく書かれた紙。


「きっと、これなら――」


 さてさて次の説明へ行かないと、と駆け足気味にテニーチェは訓練場の土を踏みしめていった。




 ☆☆☆




 あれから一週間。

「お、テニーチェ=ヘプタ。来たか」

 けらけら笑っているのは、世界の一翼を担う国の王。

「突然で悪いが、これ、頼んだぜ☆」

 唐突に召集を命じられ応じると、挨拶を済ませすぐになにやら紙を手渡された。断れるわけもなく受け取り、内容を見る。


「…………は?」


 どこにでもある依頼書だった。だが二点だけ違う場所がある。

 一つ目は、国王直々のものであるということ。すなわち、辞退不可という事実。

 二つ目は。



「――世界破り」



 おそらくどの依頼書よりも難易度の高い、民間で使われる依頼書なんかでは頼まない内容である、ということだった。



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