四十八 紫になった!
ただし、とテニーチェは付け加える。
「先に毒素が含まれていないかをアージュスロが確認してからで宜しいですか? もし毒素が含まれていた場合は、私が毒素を消してからで」
「アージュスロ様、調べっれるんですのぉっ!?」
「だ、団長って、毒素消せるんですね……」
二方向から驚きの声が上がった。そしてロコ・パートイーサはえへえへしていて、イグール・アトリボナはまだ先の驚愕から立ち直れていないようだった。
任務ってもうちょいお堅いものなんじゃないのか? なんて思っちゃったテニーチェである。
「オレ、雑用じゃあ……」
「お願いしますね♪」
「ぁ…………、はい」
紫の世界にある木の実がどのような味をするのか、実はテニーチェも気になっていたり、いなかったり。
直接触るのも危険の可能性があるということで、アージュスロの魔道で実自体をいくつか別の空間に仕舞い、一行は亜空間に入った。ヒュドア・ウィルフィーアがほへぇ……と感嘆の息を吐いている。やっぱりこの色鮮やかすぎる場所は、一定の感情をもたらすようだ。
他の場所を参考にしたのに何故か自分が反り返っているアージュスロに、テニーチェは冷たい視線を向ける。
「アージュスロ。早速お願いします」
「ぉう、まっかせとけ!」
なんか期限がいいのも、ヒュドアが感心を示していたからだろう。
ちなみに、ようやく驚愕から立ち直ったイグールは紫色の木の実に興味を示していて、アウウェン・トルス=ブロントロスはこの亜空間はどれだけの攻撃に耐えられるのだろうとさっきから跳ね回っていて、ロコは相も変わらずえへえへえへへとだんちょーにくっつく隙を狙っている。
もしかするとヒュドアって、この組の中ではまだ大人なのかもしれない。他の三人の子供さっぷりを思い返したテニーチェはふとそう思ってしまった。
「ぉー……テニーチェ、コイツら毒あんぞぉ〜」
なんかヘンな感じすっけんなぁ……、と言い残したアージュスロから、木の実たちを受け取る。表面には無いみたいなので、直接素手で。
「変な感じとは?」
「ぅん〜、なんつぅか、自然の毒じゃあなさそうなんだよなァ。それんしては、中まで食い込んでるッつうか」
「なる、ほど……?」
全てを理解しきった訳ではなかったものの、言いたいことは分かった。
「本来この木の実には無いはずの毒が、どこかのタイミングで強く根付いてしまった、ということですか」
後で書く報告書に記すことが増えた。書くのは第二のムスーミュス=デュオ・クスッタロスだが。今回の任務の総隊長はムスーミュスなので、テニーチェは探索内容をムスーミュスに伝えるだけで良いのだ。これまで資料を纏めるのに一日費やしていたことを考えると、今回は多少、楽が出来そうだ。第二団長には悪いけれど。
「んぁ、テニーチェ、オマエの仮面に情報送っといたぞ。コレん通りにやりゃあ、毒は全部消せるハズだ」
「ありがとうございます」
毒があるなら食うなと言われそうだが、まだ食べたことも無く美味しいかもしれない可能性があるなら、食べて見る価値はあるのだ。あくまで自己責任なら、誰も文句は言ってこないはず。
「念の為、毒を消した後に私が食べても大丈夫そうだったら、今日の昼食の一品としましょう」
四人の団員に目配せをしたテニーチェ。イグールは涎を垂らしそうになっていた。たぶんこちらは、より多くのものを食べられるかもしれないことに対してだろう。
では、とテニーチェはアージュスロからの情報を元に魔導を発動させた。
「――――」
「……んぁ、消えたぞ」
声なき音、後、追加で調べてくれたらしいアージュスロからのお墨付き。なんだか本当に今日のアージュスロは機嫌が良い。
「では」
いつの間にかやら半分仮面に付け替えていたテニーチェ。
ハムッ、と大きな一口。
「……ぅ」
テニーチェの顔が、紫になった!
(ただし仮面のせいで、下半分と耳しか見えていない!)
「ぅ、く、……ぅくん…………」
そしてとても不味かった。
「あ、っと、団長さん、俺、やっぱ食うの止めときやすわ」
どうやらイグールは見て見ぬ振りをすることにしたようだった。
「……水、水を…………」
「は、はい! ちょっと待っててください、今出しますっ」
折り畳めるコップを取り出したヒュドアが、魔道で水を出す。
「ど、どうぞ。あの、追加で必要でしたら、言ってください」
「あ、ありが、とう……ござ、い、ます……」
紫の木の実による苦味とエグみと、およそ個性的では表しきれないその味をなんとか水で押し流そうとする。十杯ほどお替りをもらって、ようやく我慢できる程度に落ち着いた。
「えへへ〜、だんちょーすきありぃ〜、えっへへぇ」
「ぅへっ」
今はくっつくな、ロコ・パートイーサ。頼むから。
視線をそらそうとしてくるイグールと、苦笑いのヒュドア、それからようやく気が済んたらしいアウウェンに手伝ってもらい、ロコを引っ剥がすことに成功したテニーチェ。顔の紫はまだまだ紫はしている。
それから、個々に支給されていた保存食での昼食となった。さらに水を貰って食事をできるくらいには落ち着いたテニーチェは、リスのようにポリポリ保存食をかじっている。
ヒュドアはやはりいつもの軽快な笑いと似たものを苦笑いに潜ませつつ、ゴクリと水を飲む。
「それにしても、団長の闇属性の魔道って、いろんなことができるんですね。他じゃ見たことないです」
「そ、うです……か…………?」
テニーチェが完全に立ち直るまで、今しばらく時間がかかりそうだ。




