四十七 ひっつき虫、再燃
今回短めです。
それは唐突にやってきた。
「えっへへ、だんちょー、ロコロコお腹減ったんだよ〜、えへへ」
何がって、ロコ・パートイーサのくっつき虫再燃が、である。確かにロコのお腹からはぐうぐう音が鳴っているけれど、わざわざくっつかなくても良いと思う。彼の腕力がそこまで高くなくて、密着でぎゅうぎゅうされてもテニーチェのお腹は痛くならないことが唯一で無二たる不幸中の幸い要素かもしれない。
というか、良い年した男子が女性にくっつくのは如何なものか。
「離れてください」
「えっへへ〜、お腹減ったんだよぉ、えへへへぇ」
えへへじゃないえへへじゃ。
「分かりました。昼食にしますから、離れてください」
そしてロコはえへへへえへへで離れようとしない。ぐいぐい頬を押しても離せなかった。結局ヒュドア・ウィルフィーアとイグール・アトリボナに頼ってしまったのは仕方のないことだろう。アウウェン・トルス=ブロントロスはアージュスロとわちゃわちゃしていた。
「でも団長、昼食にするといっても、どこで食べるんですか?」
そう尋ねてきたのは辺りを見回していたヒュドアである。探索を始めてからおおよそ二時間。紫の森もわりと進んできているためか、周囲には木しかない。どう見たって座って休めるような場所はなかった。
そうですね、とテニーチェは顎に手を当てる。主に、ここらの木数本を消しちゃっても大丈夫かどうかを悩む為に。
むうむう唸っているテニーチェの少し離れた場所から、なら、と声が上がる。
「オレ、亜空間作ろぉか?」
アージュスロだった。
「アージュスロ様、亜空間、おぉ作りになっれるのでっすかぁっ」
そしてアウウェンは五月蝿かった。
なるほどその手があったか、とテニーチェは頷く。
「では、お願いしても宜しいですか?」
「ぉう〜」
ひゅいっとアージュスロの短くも長くもない腕が振るわれる。テニーチェが魔力を吸われる感覚を味わった後、木々の隙間に人一人分が入れそうな極彩色の裂け目が出てきた。おそらくこの色、エクスファラン草の栽培所の色を参考にしている。否、あの場所の色まんまだった。
「団長さん、あの木の実食ってみねぇか?」
「……ぇ? 何言ってんの」
ロコやらアウウェンやらと比べておとなしめに着いてきていたイグール、ここに来てヒュドアにツッコまれていた。
「んや、渡されてる保存食だけじゃ足りねぇ気がしてよぉ。それに、……ほら! 探索の一環にもなるし!」
二つ目の理由は今思いついたのだろう。だって少し、言葉が詰まってた。
そうしてテニーチェの回答。
「構いませんよ」
一番驚いていたのは、ヒュドアではなくイグールだった。
驚くくらいに否定されると思ってたなら、何故言った。




