四十四 何かしでかしての呼び出しでは決して無い
先の任務で天井付きになった訓練場二階の広々すぎる空間で団員たちと訓練をしていたら、質の良い服を身に纏った侍女がやってきた。どっからどう見たってお偉いさんからのお遣いだろう彼女は、やっぱりこの国一番の権力者からの使者だった。
「テニーチェ=ヘプタ第七王宮魔道師団長様、国王陛下がお呼びです。至急、謁見室までお願いします」
「畏まりました。皆さんはこのまま訓練を続けてくださいね」
単独任務から十日と五日経過している。そろそろ呼ばれてもおかしくないと考えていたから、ワタつくことは特になかった。
「え? 団長、なにかしちゃったんですか?」
楽しそうに笑いながらおちょくってくるヒュドア・ウィルフィーア。だからお前は直属上司のことをどう思っているのだ。
軽快に笑ってるヒュドアを放置し、訓練場を出る。
無言で歩く侍女に倣い、テニーチェもひたすら口を噤んで歩を進める。第七の敷地から出て、本宮へ。謁見室への直接転移は必要時以外原則使用禁止。転移の魔道で移動した方が楽っちゃ楽なのだが、そういう決まりなので仕方がない。過去にはバンバン使っちゃってた人もいたらしいが、雇用主の機嫌を損ねない大切さをテニーチェは身を持って知っている為、徒歩で向かっているのだ。
謁見室に近付くにつれ、綺羅びやかの増していく内装。威厳も国力を示す大事なファクターの一つだ。とはいえテニーチェも何度か謁見室までの道のりは歩いたことがあるので、今更キョロキョロしたりはしていないが。なんとなく、先日のエクスファラン草栽培所中心部屋の彩りには負けている気がした。多分あっちは、様々な属性が渦巻いてたせいで意図しない色彩の混じりが発生していたから、嫌にも鮮やかと感じてしまっていたのだろう。
やがて大きな両開きの扉がテニーチェと侍女の前に立ちはだかる。無論、この国一番の絢爛さを秘めた謁見室の入口、並びに出口である。むしろそれ以外、今のテニーチェたちに立ち止まる理由はない。
侍女が扉両脇に控えた二人の兵士に目配せを送る。兵士はコクリ頷くと、手に持っていた槍を同時に二度、床に叩きつけた。
間も無く、ギィ……っ、と。雅に飾られた堅牢な戸は開く。テニーチェの視線にガタイの良い七色のマントを羽織った男性が映り込んだ。扉の付け根前に顔を俯かせながら留まる侍女を置いて、テニーチェは謁見室に立ち入る。
いつものように跪いた。
「やっほ〜、テニーチェちゃん。二週間ぶりくらい?」
「はい」
軽快な笑い声を上げるナミスシーラの十三代目。
「呼んだ理由は、もう、見当がついてるみたいだね」
さぁ、頭を上げて。国王の両腕を軽く振るってみせた仕草に、暗黒色のヴェールが静かに揺らめいた。
☆☆☆
「――そういうわけで、五日後より第二王宮魔道師団との合併任務を行います。今回は以前の国王陛下による国からの正式な任務となります。より気を引き締めて臨んでください」
放送室。
手のひらサイズのマイク片手に、テニーチェは続ける。
「集合日時と場所、任務の内容など、詳細は明日の朝食時に食堂にて説明致します。不安な方はメモ出来る物を持参してください。以上です」
マイクを置く。必然的に、放送も切れる。
一息つくと、テニーチェはグッと伸びをした。これから明日朝までに話すことをきちんと纏めておかねばならない。それと、残り僅かになってきた書類仕事の方もついでに片付けておこうか。
夜間の外出許可はこの合併任務が終わってからですかねぇ、なんて考えつつ、放送室を後にしたのであった。




