四十一 久しぶりのご飯のお味は……?
ちかっ、と意識が浮上する。
ぼんやりした視界を数度瞬かせると、緩慢な仕草で上体を起こした。
橙の光が眩しい。いつの間にか黄昏時になっていたようだ。国王の元を辞して第七王宮魔道師団に与えられた建物の一角にある寝室に帰ってきたのは、ちょうどお昼頃だったはず。そういえば単独任務に出てから全く食事を取っていなかったと今更ながらに気付いた。水はちょくちょく飲んでいたが、固形物は全く摂っていない。気付いたら気付いたで今度はお腹がぐうぐう五月蝿くなった。なんてこった。
この時間なら、夕食に間に合いそう。なんなら始まってすらないかもしれない。壁掛けの時計を見ると短針は五と六の間にあった。第七の食堂、まだ夕食の時間じゃない。だって七時からだもの。
でもお腹は減ってる。さすがに突然食べすぎるのは後々に響いてくるからやらないが、胃に何か入れたい。王宮を出て軽く何かを食べに行こうかと迷うも、まぁ後二時間もしないうちに夕食の時間になるから我慢しようという結果になった。
しかれど、腹の虫はぐるぐる唸っている。
そこでテニーチェはベッド近くに置いてある目覚まし時計を手に取った。アラームを六時五十分にセットする。
つまるところ、二度寝をすることにしたのであった。
ちなみにアージュスロは、部屋に帰ってきた段階で元の半分仮面の形に戻っている。
もう一度布団を被ると、少しもしない内に寝息を立て始める。
テニーチェの疲労は抜けきれていないようだった。
☆☆☆
五日ぶりのご飯は美味しかった。
なんたって、血塗れ時代よりも食堂のご飯はずっと美味なのだ。普段から旨いものはいつ食べたって旨いに決まっている。
夕食を終え自室に戻ってきたテニーチェは、執務の椅子に座っていた。部屋に他の人がいないことを良いことに、ぐだぁっと机に突っ伏しちゃってる。そんなに疲れてるならベッドに入れば良いのだが、まだベッドにいく気分ではないのだ。あと、食べた直後に寝転ぶのは健康的にも悪いらしい。
明日はどうしようか、と悩む。
食堂で他の団員と言葉を交わし、そもそも明日は団員たちも休日であることに気がついた。そしてどうやら、第二王宮魔道士団も休みらしい。というか王宮魔道師団の一律で週に一回の休みの日なのだ。
確かに魔道師団の方の団長は万が一の際にすぐ謁見室に行けるし、団長として名を授かっている人たちは単体で下手な軍勢より強かったりもするから、国防としては大丈夫なのかもしれないが。王都の守りをしていたりその他国境線の守護をしていたりするのは王宮騎士団の方だし、国王陛下には別に近衛騎士たちがついているから、まぁ、大丈夫なのだろう。
ともかく、明日は第二もお休み。
ついでテニーチェは国王から例年あるらしい合併任務について聞いておくよう言われている。
昼までは惰眠を貪ることにして、三時頃にでもどこかのカフェとかで第二の長と待ち合わせるのも良いかもしれない。
テニーチェが単独任務で王都を離れていた間に第七の面倒を見てもらっていたお礼も伝えたい。
「ふぅ……」
これ以上遅くなると、逆に迷惑になるから、明日の約束を取り付けるなら早く行動した方がいいだろう。
ちょっとどころじゃないくらいに怠さを訴えかけきている体に鞭を打ち立ち上がると、テニーチェは執務室から出た。
目指すは第二王宮魔道師団の建物。団員たちが、ここ四日間は第二で訓練をしていたと言っていた。おそらく、第二の団長も自らの建物内にいるはずだ。というか陽も落ちた時間に遠出しているとは考えにくい。
控えめな靴音を鳴らしながら、テニーチェは明日行くとしたらどこが良いかと思考を巡らせていた。




