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仮面をつけた王宮魔道師団の長  作者: 叶奏
世界破り@名も無き小さな世界
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四 ふわふわなロールパン



 集団魔道構築は深夜三時頃までかかった。一応形にはなったものの、もしかすると夜が更けすぎての深夜テンションなるもので思考が鈍っているかもしれない。今から寝て、明日起きてからもう一度確認しようと決めた。

 団長の執務室から扉を介して直通で繋がっている部屋に入り、テニーチェはグッと伸びをする。ここは団長の私室。つまるところ寝る場所だ、主には。というかほとんど寝る以外にこの部屋を使うことはないと思う。そしてそんな団長様の私室にもシャワーの備え付けはない。第七王宮魔道師団にはこの団専用の集団浴場がある。もちろん男女は別々にわかれている。

 今日、というか今の時間だともう昨日にあたるが、まぁ色々忙しかった。実はそこまで身だしなみを気を付けていないとはいえ、シャワーは浴びたい。ちなみにテニーチェの性別は女。お風呂後の髪の毛は水か滴り落ちない程度に魔道でどうにかしている。魔道技術の賜物、髪を乾かすためのドライヤーも存在するが、そんなもの面倒だから使わない。この時点で色々お察しである。


 とにかく、ここまで夜遅いとなれば、集団浴場へ行こうとはさすがに思えない。たぶん、浴場を動かしている人たちも寝ている。

 ふぅ、とため息をつく。仕方がない、今日は魔道で体を清めるので我慢しておこう。

 団長就任から一週間、執務室に籠りっぱなしの間も魔道で清めていたが、まぁそんなこと、他の団員に知られていなれば権威も保てるというものである。




 翌日。

 アラームで叩き起こされたテニーチェは不機嫌そうな顔を隠そうともせずに私室の扉を蹴り開けた。朝は苦手。ちなみにこのアラームも、魔道技術の以下略。

 執務の机の前に立ち、錘を退けて紙を手に取る。昨夜七時間以上かけて組み上げた集団魔道の概要を見返すが、特にミスはなさそうだ。朝食後にもう一度確認しようと決めつつ、団長執務室から廊下に移動する。たしか第七に与えられたここにも一斉連絡用の放送魔道具があったはず。朝食後に訓練場に集まるよう、食事処へ向かう前に言い渡しておこうか。キュルキュルなるお腹を宥めつつ、テニーチェは歩を進めた。


 放送器具のそばに置いてあった説明書を頼りに団員たちへの放送を済ませ、その足で朝食を食べに行く。ふわふわのロールパン二個とブルーベリージャム、スクランブルエッグにこんがり焼かれた厚めのベーコン二枚、あと幾枚かのレタス。毎日選択制の飲み物はオレンジジュースにしておいた。なんとなく酸っぱいものが飲みたい気分だったのだ。今日も朝から美味しいものを食べれて幸せだなぁ、なんて感傷に浸っていたら、向かい側の席に誰かが座った。ここの食事処は向かい合って十人ほどが座れる長い机が三脚ある。自由席なのでどこに座ってもオッケーだ。テニーチェはなんとなく毎回端っこを選んでいる。

 誰かと思い顔を上げると、イグール・アトリボナがいた。火属性を極めまくっちゃってる第七団員の一人だと記憶と合致させる。彼は団長就任の宴のときに話しかけてきたこともあり、顔と名前がしっかりと一致していたみたいだ。


「団長さん、さっきの放送、マジ?」


 口にまだふわふわロールパンを詰め込んだ状態で質問してきた。テニーチェはオレンジジュースを一口飲むと、こくりと頷く。

「本当ですよ。昨日にも言いましたよね?」

「んあ、たしかにそうだけど……」

 ちょっと不満げなのは、自由な訓練が楽しかったからだろうか。記憶を掘り返してみると、確かにイグールも笑顔でばんばん火の球を操っていた気がする。


「アトリボナさんは魔道がお好きなのですね」

 テニーチェが笑いながら尋ねると、嬉々満面でおうと答えられた。今のテニーチェは顔上半分だけを覆う仮面をつけている。笑顔も口の角度で伝わっているはずだ。

「っつても、俺が好きなんは自分が強くなるってことだけどな。俺の一番得意なのが火の魔道で、んだから魔道も好きってなんのか」

 ガツガツロールパンを口に放り込みながらイグールは続けた。彼の皿にはまだ十を越えるロールパンが載っている。美味しいことはわかるけど、そんなに腹に入るものなのだろうかと疑問に思ったが、まぁ入るものなのだろうと自分のなかだけで完結させておいた。


「なるほど」

 テニーチェはにこりと口角を上げる。

「では、集団魔道を使いこなせるようになれば、より強いものを打ち倒すこともできるようになりますね」

 イグールは目をぱちくりさせている。

「んや、今までも集団魔道をやったこったぁあるが、結局実にならねぇで終わったぞ? それに他の魔道師団が使ってるのを見れば強そうなのはわかんが、んでも中にゃあ俺の単体魔道のが絶対強いってのもあったし……」

「だからこそ、です」

 オレンジジュースの最後の一滴を飲み干した。

「集団魔道も、うまく構成を練れば乗算式に威力が伸びていくものですから」

 ふーんと生返事をするイグール。どうやらまだテニーチェの言うことが信じきれていないようだ。あるいは、納得はしていてもどうせ使うことはできないと、自分事に捉えていないのか。


 まぁ楽しみにしていてください、とテニーチェは朝食の皿がならんだトレイを持って立ち上がる。

 気づけば全て食べ終わっていたようだ。


 まだロールパンの残っているイグールを残し、皿を片付ける。

 訓練場に皆が揃う前に簡単な準備を終わらせておこう。



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