三十九 転移先は首が吹っ飛ぶかもしれない場所です
ごめんなさいサボりすぎました本当に申し訳ありません。
「おっかえり〜」
目の前にいきなり人が現れて冷静に挨拶を口に出来ちゃうナミスシーラの十三代目って、実は精神図太いのかもしれない。
「只今戻りました」
「ぁー、オレもっす」
「珍しくアージュスロくんが稼働しているのね」
すぐさま跪いたテニーチェと、頭を抑えられたアージュスロ。
軽く言葉を交わしつつ、本題へ。
「あ、頭は上げてちょうだい」
テニーチェが厳重なる防御結界が張ってあるはずの王城まで魔道により直通で来れたのは、事前にヘプタの名を持つ存在として魔力を登録してあるから。万が一の際に一番早く国王陛下の元へ辿り着く為の手段というわけである。ちなみに叛逆の意思を持って城へ転移しようとすると即座に首が吹っ飛ぶらしい。
あと、他の人を連れてきても飛ぶ。この場合は本人だけじゃなく一緒に来た人も。
アージュスロが何事もなく入れたのは、テニーチェの魔力に紐付けられた人工生物だからだ。意思を持っているとはいえ、あくまでモノ扱いなのである。だいたいその意思も、外からテニーチェと作成者なら手を加えられるような代物。だったらテニーチェが操った方が楽かと言われればそうでもないのだ。やっぱり意思を持って自ら動ける存在というのは、なんやかんや重宝されたりする。
ナミスシーラの十三代目に告げられ垂れていた頭を上げたテニーチェは、近づいてきた近衛兵さんに採取してきた一束分十二本のエクスファラン草の入った袋を手渡す。なんの変哲もない、最近開発されたらしい安価な人工材料で作られた袋だが、中身は馬鹿みたいに高価なもの。兵士の手が微妙に震えていたのは、まぁ普通な反応なのかもしれない。それを無造作に放り投げるようにして渡しちゃったテニーチェは、単にエクスファラン草自体が以前から身近なものだったからというだけで。
近衛兵から、国王へ。受け取ったそれの中身を確認して大ぶりに頷くと、国王陛下は再びテニーチェと未だ頭を抑えられたままのアージュスロに視線をやった。
「ちゃんと採ってきてくれたみたいね。お疲れさま。これで今後一年は安心よ。
ところで、どうだった? テニーチェちゃんにとっては久しぶりだったでしょ?」
「久方振りとはいえ、そこまで間が空いたわけではありませんが……。ですが、そうですね。やはりこちらよりかは魔道の使い勝手は良かったように感じました」
「あら、やっぱり?」
「えぇ」
ふと、テニーチェは思い出す。そういえば、要求したいことがあったのだ、と。どうせならついでに言っとくか、なんて考え、続ける。
「国王陛下。一つ、今回の依頼の件とは別にお願い申し上げたいことがございまして」
ん? と聞き返してくれた声音から察するに、遠慮なく言っちゃっても良さそうだ。
「今後、夜間に王宮から出る許可を頂きたいのです」
「理由は?」
「個人的な鍛錬を積む為です。現状、第七王宮魔道師団の訓練場では正直全力を出すことは厳しい故、出来れば攻撃性の高い魔道を使っても地形が変わらぬような場所で毎晩の訓練を行いたく」
「なるほどねぇ」
嘘をついていないことは、国王本人様の能力からして理解しているはずだ。
「わかったわ」
はたして、ナミスシーラの十三代目は特に変わらぬ口調で許可を出す。
「ただし、場所はこっちで用意させてもらうから、ちょっと時間がかかるわ。テニーチェちゃん的にもそっちのがいいと思うし、そこは我慢してちょうだい。
あと、行きも帰りも転移する場所はこの謁見室からでお願いね。毎回アタシが立ち会えるわけじゃないけど、許可があってもこの王都内で王都外への転移が使えるのって謁見室だけからだし、テニーチェちゃんの鍛錬のためだけにこの仕組みを弄るのは手間だから。そこんとこは納得してくれると助かるわ」
「畏まりました」
多少制限があるとはいえ、場所の手配はしてくれるようだ。テニーチェも今すぐ鍛錬で使える広大な場所は知らないため、そこは正直助かる。
前まで住んでいた場所は、どちらかといえば寝泊まりオンリーで使っていたような居住地だった為、第七の訓練場より下手したら壊れやすいかもしれないくらいなのである。そりゃあ、血塗れ時代は鍛錬なんてやってる暇ないくらいに忙しかったというのもあったりはするけど。
「他になにか言いたいことはある?」
国王陛下に問いかけられ、ちょっと考えて特に思いつかなかったテニーチェは静かに首を横に振った。
「いえ、特にはございません」
「そう。報酬は月給と同じくテニーチェちゃんの口座に振り込んでおくわ」
今度の休みの食べ歩きは、ちょっと豪華にしてもいいかもしれない。
これで終わりかと考えて立ち上がろうとしていたテニーチェに、なぜか国王はさらに言葉を重ねてきた。
「それでね、テニーチェちゃん」
なんか既視感がある。既視感というより、既聴感かもしれないが。
今度こそ惰眠を貪りたかったテニーチェは、せめてこの単独任務の追加報酬的な何かで今日と明日は休みにしてもいいよと続くことを願った。
「今度は、第七王宮魔道師団に、正式な王家からの依頼を頼みたいの」
しかしどうやら現実は非情のようで。
テニーチェの耳は、惰眠が遠ざかって手の届かない場所に行っちゃった音を確かに捉えていた。
最近忙しすぎてビックリしてますが、また頑張っていきたいと思います。




