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仮面をつけた王宮魔道師団の長  作者: 叶奏
単独任務@???
38/95

三十八 それは、それは

 ごめんなさい。二日ほどサボってしまいました。



「ドゥアブス・パルティブルス・エイズム・モネッテ」


 それはいつもの声なき音による詠唱ではなかった。

 たしかに空気を震わせたのは耳で聞き取れる文言で、瞬間、テニーチェのつけている仮面の金色な装飾部分がきゃらきゃらと煌めいた。


 ――ぅ、ぐぅ……。


 念話越しにアージュスロの唸りが届く。石像や部屋のあちらこちらから今もなお続く魔道による攻撃に対処しながら、竜もどきに目をやっていたテニーチェは瞼を閉ざす。

 視界で捉えていなくても危なさそうな魔道は全てテニーチェの魔道によって消えていく。ここら辺は以前の全体訓練の時にも使っていた、程よい近さで発動した魔道の魔力を感知するという技によるものなのだろう。特に今のテニーチェは前の最後の全体訓練よりも集中力を上げることによる感度の上昇を実現しているがため、ちょっと離れてるくらいなら目で見なくとも止められる。


 ――ぅえぇ……きもちわりぃ…………。


 ごちゃごちゃ言ってるアージュスロ。されど仕事はきちんとこなしている。

 テニーチェには使えない詳細の探索魔道の結果を、リアルタイムでテニーチェも受け取っていた。精度はやはりテニーチェだけでどうにかこうにかする時よりも遥かに高く、同時にテニーチェがしらみつぶしで一つ一つ手ずから調べていくよりもずっと楽に、魔力もぐっと少なく済んでいる。


 ――……ん。

 ――お。


 探知に何か違和感がはさがったような感覚。

 これだと判断するよりも速く、どちらかといえば反射的な対応力をもって、テニーチェが口を開いた。


「無へ!」


 伸ばした手の先から闇色の光が生まれる。カチッと瞬いて、弾ける。テニーチェから右斜前にある床の下。なんの変哲もない、むしろ違いなんてものはどう見たってないような床が、唐突に抉れた。


 ――……おぉ…………。


 感嘆を念話に零したのは、目を回してんのかと疑いたくなっちゃうくらいにふらふら浮いてる竜もどき。彼(?)の弱々しい視線の先には、特に音もなく崩れていくバカでかい石像があった。

 テニーチェも小さく息を吐きながら石像の崩れを確認。先ほどの魔道で核を壊せたのだと頷いた。


 ――ぁー、もーいーか?

 ――えぇ、ありがとうございました。


 念話でやり取り後、感覚共有が解かれる。ぐへぇ、とアージュスロは今にも地面にヘタレ落ちていきそうだ。


 ――やはり感覚共有は慣れないと?

 ――ぁ……。あくまで常人の設定しか感じられねーオレからしちゃあ、オマエらの普段持ってる感覚なんてもん、理解不能でしかねぇかんなぁ。

 ――多少他よりズレていることは理解しているつもりではありますがね。

 ――へーへー。つかオマエ、また強くなったろ。気持ち悪さが増えてたぞ。

 ――強く、ですか……。


 どうやらテニーチェの主観からしたら弱くなっているように感じていても、アージュスロの感覚共有越しでは強くなっているように思われたらしい。

 なんだかなぁ、なんて思いつつ、テニーチェは歩き始めた。崩れ落ちた石像を踏みつけても反撃等はない。部屋からの攻撃もあるっちゃあるが、まぁそれくらいは些細なものである。なんせ隣のエクスファラン草栽培部屋へ繋がる扉の真ん前に鎮座している訳ではないのだから。



 ドアノブを捻る。

 一息に開けきると、先には摩訶不思議な空間が広がっていた。


 ――ぉお、スゲェなぁ〜。


 いつもと変わらない軽さで言いのけたのは、いつもと違ってへろへろなアージュスロさん。感覚共有の疲れはそうすぐに抜けるものではないらしい。

 栽培部屋に入って、後ろ手に扉を閉める。ただでさえ濃い魔力濃度が、より一層高まった気がした。


 ――変わりませんね、ここは。


 ゆったり歩を進めるテニーチェ。

 部屋の中心には、いくらかの花壇と蕾が宿る寸前で成長を止められた植物がぴったり十二本、這えている。そこらの雑草とは比べ物にならないくらい大振りな葉が何枚かが地面から直接顔を出していて、その束が十二あるのだ。

 色は黒。どことなくテニーチェの闇の魔道を発動させるときの光の色と似ていた。


 事前に知識として蓄えてあった情報を元に、丁寧にエクスファラン草を採取していく。採ったものは第七の制服のベルトに提げてあった袋に入れてを繰り返し十二回。依頼内容を達成しきったことに、そっと安心を覚えた。

 立ち上がったテニーチェの回りの風景は、エクスファラン草が全て抜かれた後も変わらない。エクスファラン草育成の為の魔力が幾重にも張り巡らされていて、現実とは到底思えないような複雑怪奇な色が混ざりに混ざっている。アージュスロがぽかぁんと物珍しそうにキョロキョロしているのにも頷けちゃうくらいだ。


 そんな内装に見惚れることもなく、テニーチェはそそくさと歩き始める。特段見慣れているという訳でもないが、これよりもっとすごい光景を知っているから。

 来た扉とは違うもののドアノブを掴む。くいっと開けると、真っ暗闇が広がっていた。


 ――ぁ、ぇ、ちょ、テニーチェさん?


 なにも言わずに暗闇に飛び込んでいったテニーチェに、アージュスロは戸惑いの声をあげる。だって見るからにやばそうな雰囲気漂ってる。

 とはいえ、テニーチェから念話で、早くしないと置いていくと言われてしまったら、進む他に取れる手段なんてものはないのである。


「ほへっ?」


 そうして瞬きをしたアージュスロ。

 なんと暗闇に飛び込んだかと思ったら、見覚えのある扉の前にいた。どっからどう観察してもエクスファラン草栽培施設の入り口だ。


 ――帰りますよ。


 続いての念話で、また、風景が切り替わる。

 一瞬後には、きらびやかなナミスシーラ王国の城・謁見室に移動していた。



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