三十七 魔力は非常に繊細なる代物なので
今回短めです。
候補をあげよう。
(入り口すぐの下、この部屋の地下のどこか、また天井裏のどこか。石像の心臓部に入れるのは露骨すぎるからないとして、石像のすぐ下とか出口扉の脇とか、そこら辺なら有り得そうですね)
この施設の監修は偉い人も関わっている。設計者だけがデザインしたのなら意表を突いての心臓部に核がありましたなんてこともあるのかもしれないが、流石にその案は偉い人たちがバッサリ切り捨てているだろう。ここまで手のこんだ施設でまさか心臓部にはないだろうと侵入者も考えるのかもしれないが、それでもとりあえず心臓部を砕いておこうとする可能性は十分にあるからだ。
(絞り切ろうにも候補が多すぎるのでは……?)
一つ魔道をぶっ放したテニーチェは立ち止まる。戦闘が始まって早々、面倒くさい頭脳戦から逃げたくなってきた。だが魔力を回復させる薬など持っていない。以前は友人が作ってくれていたが、それも血塗れ時代の度重なる依頼で作ってもらっては全て使い果たしてを繰り返していたもので、今は残っていない。魔力というのは非常に厄介な代物で、それこそ人によって細かすぎるくらいにタイプ的な何かが違うとかどうとからしい。つまり、テニーチェの友人が作ってくれていた薬はテニーチェ専用のもので、かつ友人がそっちの方面にはひどく優秀であったがために成されていたこと。市販で魔力回復薬が出回るようになるには、あと百年か二百年くらい技術が進歩しなければならないだろう。天才が生まれて五十年ちょっとでどうにかなるのかもしれないけど。
まぁ、今は無いものねだりをしても仕方がない。テニーチェがいるのは既に実戦の場で、帰るには前に進む他取れる手段がないのだから。敗走したら色々面倒なことになりそうなので、後ろに逃げる手段は最初っからない。
アージュスロに探知の魔道で探してもらうのもありだが、彼女のことだからきっと、魔力阻害どころか他の場所に核と非常に似た反応を起こすくらいやっていそう。けれど一回探知しておかないと、いつまでたっても見つけられないことに違いはない。
そもそもこういった類いの依頼は初めてなんですよねぇ、と心の内でぶつくさつぶやきながら、テニーチェはアージュスロに念話で話しかけた。
――アージュスロ、私と感覚共有をした上で探知の魔道を使っていただきたいのですが。
――ぁ……感覚共有? ぇ、オレ、あの感じあんま好きじゃな…………ぁー、や、なんでもねぇっす。はい、やりますッス。
協力はしてくれるようだ。
――では、いきますよ。
――ぁ、や、スグ終われば辛いのも少しだけだもんな。おっし、任せとけ!
なんか元気になったアージュスロ。
テニーチェは大きく息を吸い込むと、予め決められている感覚共有を執り行うためのキーとなる言葉を口にした。




