三十五 アラーム、五月蝿い
ピピピピピピ――ッ、と鋭い電子音が走った。
鼓膜が破れるかと思った。三日後に鳴るよう設定したのはテニーチェだけど、そもそもアラーム付きの腕時計を支給したのは王国、つまりは国王陛下。なので耳が痛くなったのは国王が悪い。そういうことにしておいた。
さて、と魔道の手を緩める。
――行きますよ、アージュスロ。
――へぃへい。
どこへ、とは言わずとも理解している。
最終守護のいる部屋へ、だ。
最終守護のいる部屋というのは、即ちエクスファラン草の栽培している部屋の直前にある、侵入者を止めるための最後にして最強の措置を行う場所である。テニーチェのように正規で入った人であっても侵入者と同等に扱われてしまう故、テニーチェもこの最終守護を突破しなければならない。
内容は毎回異なる。これはエクスファラン草の栽培に伴い魔力が建物中を巡って施設そのものが生き物如く毎回違った装いを見せるのと同じ原理。
出来るだけ楽に切り抜けられるものだったら良いなとは思うが、だいたいこういうのは同じくらいの難易度・凶悪さに設定してあるものだろうから、ここで願ったところで意味はない。せいぜい苦手な分野じゃなければといったところだが、強化合宿最終全体訓練みたく殺人以上の力を持つ魔道を禁止されていないテニーチェからすると、正直どんなものが来たって対応できる。対応出来るように、今までの人生で経験を積みに積んできた。
なので、いたって軽い足取りで、どちらかといえばもうすぐ依頼内容が達成出来る方に喜びを覚えつつ、テニーチェは竜もどきを引き連れ最終守護の部屋に入った。
直後、正面切ってこれまでで一番熱そうな蒼色の炎が飛んでくる。テニーチェは一つ瞬きをし、パシッと容易く攻撃を消し去った。
部屋の中を見渡すと、どうもエクスファラン草の栽培部屋に繋がる扉の前に大きな石像みたいなのが鎮座している。どう考えたってヤバめなヤツだ。魔道だけじゃなくて物理も兼ね備えてそうなそれは、この部屋が栽培部屋に次ぐ防御魔道が張り巡らされているからこそ叶う代物なのだろう。
――ァー、オレ、どぉすりゃぁ、イイっすかねぇ~?
なんか引き気味のアージュスロ。そろっとテニーチェの背中に隠れようとするのを、首根っこ捕まえて阻止する。
――アンタは逃げ回りながら私の援護に回ってください。恐らくはここも機械的な動きのみであると思われますが、魔力の使いすぎで敵の注意が私ではなくアンタに向く可能性はあるので気を付けてくださいね。
――ぁ? ……ぁー、魔力探知系の機能を備えてっかも、っつうことか。
――そういうことです。敵の注意は引き付けておいた方が短期決着には便利ですので、アンタは出来る限り大人しくしていてください。
――ぁー、了解ッス。
念話の途中にも仕掛けられてきていた攻撃を、避けて、消して、そしてテニーチェは前を向いた。
最終守護を一番効率的にのすには、どの方法を取るべきか、と思考を巡らせながら。




