三十四 無意識下思考による対機械的攻撃魔道⇒防御形態
建物自体を消し去れば今飛んできている魔道全ても消せるけど、流石に許されない行為であることはテニーチェも理解している。それに、ここエクスファラン草栽培所は柔な作りをしていない。たぶん、テニーチェの魔力残量がマックスな上たっぷり時間をかけて練った魔道でも消せないんじゃないかと思う。周囲の栽培場所を守る為の要塞的な部分はどうにかなるかもしれないが、中心部たるエクスファラン草の育つ所は幾重にも幾重にも幾重にも数多たる種類な設置型防御魔道を張ってあるから。
まぁ、テニーチェなら、多少の防御魔道程度、瞬間でさえなければ消せちゃう。そんなヘプタをの名を授かった彼女でさえこの有り様ということが、エクスファラン草の栽培所が重要で、貴重で、希少で、肝要で、かつ世界を越えて守られていることが望まれている場所、と捉えても否定は出来ない。
いつの間にかテニーチェの行動は、視界に入った攻撃魔道を片っ端から闇色の消去な魔道でこの世からオサラバさせる単純作業になっていた。無論、念話だろうと会話なんてものは存在しない。アージュスロは目的地へ向かうのに邪魔な魔道を、テニーチェはその他害の及ぶ可能性がある全てを消し去る分担になっている。時間の流れを忘れたことすらも脳内から排除されていて、負の感情さえどこかに置き忘れてきた。
つまるところ、集中力が凄まじい。仮面の奥の瞳に、思慮の光すら浮いていないくらいに。
炎、氷。
光、草、闇、雷。
土。
風。
石、岩、礫。
水、火、氷氷氷風、電。
葉、花、実、種、芽、茎。
芽吹。
燃焼氷。
雷轟電撃。
他、テニーチェの知識では拾いきれない属性まで。
第七の皆がここに来たら、もしかしなくても息を呑むに違いない。なんたって、多すぎる属性の宝庫なのだから。普通では有り得ないレベルに使える人がほんの僅かしかいない属性だって混じっているから。
きっとじゃなくとも、彼ら彼女らは馬鹿みたいに喜色満面ではしゃぎ回るだろう。今の実力じゃあうっかり死にかねないから連れては来ないけど。そもそもこの場所が秘密裏的場所だったりもするので、万が一も無くぞろぞろ率いては来れないだろうけど。
けれどテニーチェはあくまで流れ作業として、歩を進めながら防御に徹する。こちらから攻めることはない。ていうか、攻めて施設の何かが壊れるのは困るから、攻めれない。中心部でないとはいえそうそう容易く破壊が出来ないことに変わり無いが、現実なんてもんは大抵理解不能の現象がぽこぽこ起こっちゃうもんなのだ。
ようは、気を付けとくのに越したことはないよね、って話。
魔力切れの心配はない。そこはちゃんと考えて魔道を使っている。考えて、というよりかは、無意識の内に消費魔力量と自然回復魔力量を織り込んだ上で最大一週間は持つように計算されている。一週間なのは、以前までの基本的な最大依頼日数だったからだ。
クアットホワライ魔境での最終全体訓練の時より、遥かに理知的な動きをしていた。あの時はやはり、殺人禁止令が一番の縛りだった。あと、今襲ってくる攻撃魔道が所詮プログラムされた機械的な動きしかしていない、というのもある。とりあえず四方八方から襲っとけ並みな、策略立てる人間では決して取らない手段による、見方を変えれば単に手数だけ多くした、本当にそれだけしかない攻撃だからだ。故に、相手がどう考えているのかを織り込む必要がない分、非常に楽になっている。
――テニーチェ。
変わらぬ様子で進み続けて、ふと、頭に声が響いた。
――もぉーすぐ最終守護んとこダ。
言葉に、思考が現実に沿い始める。対施設からの攻撃魔道のみに稼働していた脳が、会話の為のリソースを割いた。
――了解しました。では、中心地までもう間も無くというところまで来ているということですね?
――ぁー、ま、そーゆーこった。
テニーチェの防御形態が、少し、崩れる。支障が出ない程度にアージュスロが補った。否、テニーチェが別のことを考えても大丈夫なようにあらかじめ理解した上でアージュスロは動いた。
――最終守護、ですか。
ここで漸く、テニーチェは左腕にはめた腕時計を見やる。三日後のアラームが鳴るまで、あと一日と少し。時間的余裕はたっぷりある。
どうしようかと、首を捻る。その間にも容赦なく降り注ぐ魔道を片手間で消せる程度は消していった。
――ここで少し、耐久しましょうか。
やがてテニーチェの出した答えに、アージュスロは不満を洩らすこと無く頷いた。




