三十三 斯くあるべきか
攻撃する為の魔力はどこから補給されているのだろう。心の底から疑問を抱いている訳ではない。テニーチェも魔力を補給する原理については知ってるから、思わずそう思ってしまったのは、相も変わらず降り注いでくるそれらへの嫌気が指してきたから。
小さく溜め息を吐いて、やっぱりとテニーチェは目を細めた。
(精神的にも、弱くなっていますね。私)
昔は、依頼とあれば行動を阻害しかねない負の想像など全くしなかった。人間らしいとも取れる。そりゃあたしかに第七の長である以上、人間らしさは必要だ。なんたって、世界の一翼を担う大国の、表にある仕事なのだ。
これが暗殺集団とか隠密グループとか、まぁいわゆる裏の仕事だったら人間らしさなんてものは要らないのかもしれないが、第七王宮魔道師団の長は、時によっては無邪気な民衆たちの前に立つことだってあり得る。それがパレードでなのか祭りでなのかはその時になってみないと判別つかないが、いずれも人間らしさが必要であることには変わりない。
――ぁ、スマン、そっちいった。
――……ああ、はい。えっと、どれの話ですか?
――ぁー……や、ナンもねぇっす。
なんかミスったらしいアージュスロから報告を受けたが、どっからでも魔道の飛んでくるこの場所でどれがアージュスロの見逃しちゃったやつなのかなんて分かるわけがないのだ。
アージュスロの案内に切り替えてから、もうどれだけの時間が経ったのか。腕時計を見る想像すらつかないくらいに忙しい為に、気付けば時間感覚を手放していた。もっとも、テニーチェの昔からの戦い方の一つに、時の流れを忘れることで自分の限界を時間で測らないようにする、なんてものもあったりはするが。
今のところ、至って順調といえる。
大きな怪我はしていないし、テニーチェが多めに施設からの攻撃を受けているせいでちょっとばかし手が空いたアージュスロが時たま回復の魔道をかけてくれるから、細かい傷もほとんどない。
その順調さは、テニーチェに思考の余白を与えてしまうくらいのものだった。
(斯くあるべきか)
長に就任して以降、ちょっとした隙間に考えてしまうことだ。
書類仕事のキリがついたタイミングとか、一人で訓練をやっている時とか、直近だとぼぉっとしながらクアットホワライ魔境の空で当てもなく浮いていたような場合とか。最初の方は観光がてら楽しんでいたけど、いつの間にか全部見終わっちゃってたのだ。それにクアットホワライトンが全然見つからなくてげんなりもしていた。
(私は私。されど、私に非ず)
だからきっと、無意識の内にアージュスロの姿を追えるようになった今とかは、そんな隙間に値するのだろう。
(かつては出来たこと、今は出来ないこと。身体機能は以前よりも劣っておりますし、精神的にだって弱くなっています)
どこからともなく魔道が襲ってくる。
このまま弱体化が続けば、決して強いわけではないこの攻撃さえも、とりあえずでは消せなくなるのかもしれない。
(変わりたくない訳ではありません。むしろ、私は変わらなくてはならない。
けれど、)
脳裏に浮かんだのは、いつかの言葉。
――『テニーチェはテニーチェでいなきゃだからね?』
また、溜め息が洩れた。
(弱くなった私は、私なのでしょうか)
答えはまだ、出そうにもなかった。




