三十 太陽の黒い場所
今回短めです。
吹き付けてくる風が重い。空気が湿っているとかじゃなくて、物理的な重さが先程までいた場所とは違う。多分、空気中に含まれる魔力の種類が異なるのだ。多分じゃなくて、それが真実だったはず。テニーチェだとあまり詳しいことまでは分かんないけど、さっきまでの空間と今いる空間にある魔力が別物だってことは頭の隅っこが覚えていた。
そういえば、と思い返す。一番最初にあっちへ行った時は、逆に吹き付けてくる風が軽すぎて驚いてたなぁ、なんて。
とにもかくにも、目的の場所には無事行き着くことが出来たようだ。
テニーチェは左手首につけた腕時計のアラームを確認する。日付まで指定しちゃえる高機能なアラームは、しっかりと三日後と五日後に音とバイブで知らせてくれるように設定してあった。これは強化合宿で国から支給されたGPS付きのものではない。まぁ、国から支給されていることには変わりないけど。
おそらく、採取の為に行動を始めたら、時の流れなんて忘れちゃうと思うから。しっかりと任務を成し遂げるという点で、三日後と五日後のアラームは大事すぎる生命線となっている。なんたって、ここらにも太陽はあるけど、なんか黒いのだ。屋内に居ようもんなら、ガチで今何時かが分からなくなる。そして、採取対象であるエクスファラン草は屋内に這えている。栽培している、の方が正しいのかもしれないが。
おそらくは、とテニーチェは考える。これから毎年、エクスファラン草を採りに来ることになる。今まではほとんど自分に関係の無かったこと故に栽培所にはそうそう触れてこなかったが、今後の為にもある程度は作業としての効率化を図れるようにしておくべきだろう。
正規の栽培人が出来ればまた交易でかの女々しい国王陛下の元に届けられるようになるが、その場合――なんて未来のことにまで思考が及びそうになったのを、頭を振るって止めた。
とりあえずは、三日、多く取れても五日以内にエクスファラン草を回収し、あっちへ戻らないといけない。三日でどうにかなるとは思うが、いかんせん正面からまともに入るのは久しぶりなもので、あんまり悠長にしている暇はない。
魔力はここに来るまでに使った転移の魔道分減っている以外、変わったことは特にない。むしろ魔道の使い勝手的にはあっちよりも良いかもしれない。まだこっちでの発動を試したことがないから、言い切ることは出来ないが。
エクスファラン草を、一束。本数では、十二本。
交易の時と同じ量だ。
テニーチェはぐっと、大きな伸びをする。
第七王宮魔道師団の長に就任して以来、初めての単独任務が開始を告げようとしていた。




