二十五 立体的廻し蹴り術
ヒュドア・ウィルフィーア。
水属性の魔道使い。他の属性の魔道を使っているところは見たことがないから、実践では水のみと判断して良さそうだ。実践で使うのに訓練をしないというのもおかしな話だろう。
そして、物理も出来る。闇属性魔道を纏ったテニーチェの攻撃を避けていなして、ついで反撃までしてくるくらい。そういえば訓練場では毎日外周を走ってたな、なんてことを思い出した。
ボクっ娘ヒュドアちゃんは、アージュスロ、というよりかは魔道具そのものに興味が強い。ここでアージュスロを取り出したら隙が出来るだろうか、とふと思考によぎったも、流石にないだろうと振り払う。というか団長一人対第七の団員二十八人での戦闘訓練なのだから、アージュスロを投入するのはなんだか卑怯な気もする。
容赦なく襲ってくる物理と魔道の攻撃をかわしつつ、テニーチェも攻めの手は緩めない。わりと本気でやってはいるのだが、どうにも勝機が見えてこないのだ。負けそうかと問われればそれにも首は捻るが。
さてどうしようか、と悩む。取れる手はそう多くない。魔道も物理も出来得る限りの数を使用しているがため、これ以上は増やせそうにないし、と考えを進めたテニーチェの耳に雨が掠る。
ああ、そうか。
(平面で無理なら)
立体的な戦場に移行すれば、取れる手が増える。
殴りかかっていた右手はそのままの勢いで振るった。予想通り弾くためにヒュドアが左でテニーチェの右腕に力を与える。
それを起点に、テニーチェは移動の向きを強制変換した。足元に魔道で衝撃を起こし、宙に浮かび上がる。
「っ!?」
息を呑んだヒュドアを横目に、手で勢いをつけて足を振り廻し降ろした。ちょうど廻し蹴りに高落差がついたような形で、ヒュドアに襲いかかる。
咄嗟に狙われた頭を庇う為に両腕を持ち上げクロスさせたヒュドア。猛スピードな踵と交差の中心が激突。
「っは……ッ」
唐突にヒュドアの体がくの字に折れ曲がる。
テニーチェの踵には、毎度のごとく闇属性の衝撃を生み出す魔道が設置済みだった。当たった瞬間に発動するようにしてあったのも、変わらない。
つまるところ、いなすのではなく真正面から受け止めてしまったが故に、衝撃の魔道すらも全威力を食らうことになってしまったのだ。
隙が出来た、とテニーチェはすぐに追加の魔道を発動させる。ヒュドアの腹元に三個、容赦なく浴びせた。
「っぐぅぅ」
ザザザザザザッと靴底が地面と擦れる。ヒュドアは為す術もなく後退した。テニーチェは、それでもまだ手を緩めようとはしない。
斜め四十五度、角度をつけて鳩尾に魔道による衝撃を与える。同時に足払いをするかのように闇属性の魔道を使った。
ヒュドアは一瞬浮き上がった後、すぐに地面に叩きつけられる。
後は他の団員にやったのと同じ。
鳩尾へ三発、魔道を発動。
手と足の先が震えるように強張り、そして力なく地面に投げられた。上から覗き込むと、ヒュドアは完全に白目を剥いている。
気絶させることが出来たようだ。
あと、二人。
さてさて隠れた土属性と風属性をどうやって探し出そうか。
ヒュドアと一対一で戦っているときにも飛んできていた風と土の弾を避ける。せっかくあちらから魔導で攻撃してくれるなら、魔力を辿ってみようか。
そんなに簡単じゃないしそもそもまだ見つけれてない時点で隠蔽工作もしっかりなされているだろうが、とりあえずそれ以外に方法が思いつかなかったテニーチェは、しとしと雨の中、荒れた土地の上を歩きだした。




