二十四 闇属性にも種類はあるのだ(多分)
一対二。
正確には隠れた、推定風属性と推定土属性の二人も加えた一対四だが、パッと見でテニーチェが相手しているのは闇属性と水属性の二人だ。
廻し蹴りを繰り出しながら、空いた手で追尾してくる団員の魔道の主導権を奪う。消してもいいが、実は晴れを雨に変える魔道で想定よりも魔力を消費してしまったのだ。ほんの僅かずつではあるが、温存出来る分はしておこう、なんていう算段である。主導権を奪うのにも魔力は使うが、完全に消し去るよりかは消費しなかったりする。
とはいえ、敵対している団員が撃ってくるのは、主に相手の状態やらなんやらを悪化させるタイプの闇属性魔道。ヒュドア・ウィルフィーアから水属性の魔道も飛んでくるが、さすがの遠くから剛速球に向かってくるそれの主導権を奪うのは大変なので、さっさと魔道で消すか避けれるなら避けている。消去の方が主導権奪いよりも精密さを求められないのだ。ようは、楽なのだ。テニーチェの魔力温存とは、あくまで大変じゃない範囲で、という注釈がついちゃう程度のものだった。
闇属性使いの少年団員、どうも殴り合いは好きじゃないらしい。テニーチェからの殴り蹴りをかわすだけで、物理的な反撃は全くしてこない。まぁテニーチェも蹴ったりする時には付属で衝撃を生み出す魔道を使っているから、完全なる物理ではないのだが。
しかし代わりにか、少年団員は非常にスマートに攻撃から逃れている。テニーチェが魔道の主導権を奪い自らの魔道なはずであったものが向かってきた当初は驚いていたも、すぐに順応して避けるか、追尾のあるものは真っ向から打ち消している。近接戦で物理が覚束ないことが不利にならないよう、避ける技術はしっかりと身に付けているようだ。あるいはだからこそ、最初から姿を消す五人の一人に選ばれたのかもしれない。
つまるところ、一進一退。決着がつかないままの膠着状態に陥っている。今はまだ雨が降っているが、時間が経ちすぎるとまたヒュドアたちが隠れてしまうかもしれない。そうなると、とても面倒だ。
まずは少年との決着を一気につけてしまおうか。テニーチェは動かし続けていた体を唐突にピタリと止める。
「……?」
少年は眉を顰めるも、攻撃の手は止めない。
テニーチェは仮面の奥の双眸を閉ざした。
瞬間、彼は闇色の輪っか三本の内に囚われる。威力調整のために出現時には体から離してあったそれらが、少年団員を締め付ける。
衝撃に、少年の体がピクピク痙攣を引き起こした。気絶させるには足りなさそうだと判断したテニーチェは、右足を勢いよく振り上げる。
蹴りは鳩尾に直撃。くの字に曲がった少年が、泡を吐きながらその場に崩れ落ちた。
意識はしっかり狩り取れたと確認。
残り三人。
テニーチェは百八十度と四十五度程後ろにいたヒュドアに向き直る。
「だ、団長、凶暴過ぎませんか?」
ヒュドアの引き攣った笑いには、ニッコリと微笑むことで返しておいた。無論、仮面で見えようもなかったが。
つま先を地面に叩きつけ、ヒュドアの方へと走り出す。勢いに乗ったまま、右手で殴りかかった。
「ぃ!?」
テニーチェの右掌辺りに宿った魔道を避けるように、ヒュドアは腕を左腕で弾いて団長の殴りをいなす。顔は引き攣ったままだが、動きに躊躇いはない。右の拳を握りしめ、襲いかかってきた。
なるほど、とテニーチェは理解する。どうやらヒュドアは、物理による攻撃も可能であるようだ。攻撃手段の一つとして遠慮なく用いているということは、おそらくはある程度の自信もあるのだろう。
さっきの少年団員はあくまで魔道特化だったから、テニーチェが物理攻撃を止めても物理での攻撃はなかった。故にこそ離れた状態で闇属性による輪っか攻撃が出来た。
だが、多分、ヒュドアにその攻撃は通用しないだろう。乱戦に持ち込む形での物理攻撃がなかったことから、あくまでそれなりであることは予測出来るも、テニーチェが先ほどの魔道を繰り出すために立ち止まったら容赦なく物理による攻撃を仕掛けてくることはしてくるに違いない。
どうやって気絶させようか。
テニーチェは攻撃の手を休めずに、対ヒュドアへの対策を練る為の思考をくるくる回し始めた。




