二十一 蹴って殴って廻し蹴って
少し短めです。
テニーチェはアウウェン・トルス=ブロントロスに襲いかかる。闇属性魔道の発動準備をしていた両手。まずは右手からと、大きく振りかぶった。
とはいえアウウェンは雷属性の使い手。高速という概念には魔道修練に伴い慣れている。特にアウウェンが細かく雷を操るような魔道を多用していることからも、雷の威力だけに頼り切っている人と比べてずっと速いものへの対応力が高い。
団長からの攻撃をきっちりと見切って避けると、すかさず雷を何本か、無造作に放った。
テニーチェも事前に発動を予期していたが為、難なくかわす。優雅に舞うように、今度は左手で殴りかかった。だがまた、避けられる。
視界に捉えられる団員はアウウェンだけだが、姿を消している団員はまだ五人もいる。アウウェンばかりに構ってはいられない。現に色んな方向から氷、水、土、闇、風の魔道が飛んできている。当たらないようにはしているが、魔道発動を感知できない距離から死角で撃たれたものには対応しきれていないところもあった。
もうちょっと集中力を高めるべきなのかもしれない。テニーチェは一度息を止めると、見つけていた隠れた団員二人に向けて闇属性の魔道を放つ。もちろん、アウウェンへの攻撃も怠らずに。
廻し蹴り。後ろに跳んで避けたアウウェンに、宙で魔道による衝撃を作り足場代わりにする。テニーチェは拳を握りしめて半身になった。もう片方の足で地面を踏んで、推進力を上げる。
アウウェンのかかと上まである長すぎる髪が空気に圧されてたなびく。空いた左手でむんずとその髪束を捕まえると、さらに一歩踏み込む。
さすがに避けきれないと察知したのか、アウウェンは雷の魔道を発動させた。行き先は全てテニーチェ。三百六十度から襲ってくる細く威力の高い雷を、テニーチェは自分の魔道で消し去ることで対応した。焦った表情を浮かべるアウウェンはせめてもの抵抗をと雷を障壁のようにして生み出すも、すぐに消去されてしまった。
グッとテニーチェの拳がアウウェンの鳩尾に食い込む。体をくの字に曲げたアウウェンに、さらなる攻撃として三個の闇属性魔道での衝撃で荒れ地に叩きつけた。
わずかに舞った砂埃に目をしかめながらも、テニーチェはアウウェンの様子を確認する。どうにか意識は刈り取れたようだ。これであと五人、と一番近くにいる隠れた団員に魔道を放った。
二人、いや三人は見つけている。問題はまだ発見していない二人をどうするかだ。
アウウェンと戦っているときに五人から魔道が飛んできていたことからも、おそらくはあちらからテニーチェは見えているのだろう。もしくは感知出来る能力がテニーチェよりも高くて、地中だったりなんなりに隠れてはいるが、魔道で攻撃は出来るという状態。後者の方が面倒だ。
とりあえずはわかっている人から気絶させていこうか。
感じ取れる魔力を頼りに、テニーチェは地面を蹴った。




