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仮面をつけた王宮魔道師団の長  作者: 叶奏
世界破り@名も無き小さな世界
2/95

二 長の仕事とは……



 俺の名前はイグール・アトリボナだ。

 ボクはヒュドア・ウィルフィーアです。

 それぞれ火属性と水属性の魔道が得意らしい。


「……――んでよ、そういうわけで、俺の口調は許してくんねぇか?」


 どうやらイグール・アトリボナ、生まれも育ちも貧民街という、わりかし粗悪な環境だったとのこと。王国にあるそれなりの街の貧民街で暮らしていたときに街が魔物に襲われ、眠れる獅子ことイグールの隠れていた実力が外に出たことが今の立場に至る経緯だと、彼は語った。

 街が襲われたのがおおよそ三年前、実力を買われて様々なところを転々としつつ、最終的に王宮第七魔道師団に収まったのが半年ほど前。堅苦しく話すことはとうの昔に諦めたと大きな声で笑っていた。笑うところではないだろうとあきれた声を出すことをこらえたテニーチェは、たぶん、褒められるべき。自分ではそう思っておくことにする。

 まぁなんだ、口調がどうとかを気にする人間性ではなかったことに感謝をしておこう。


「アトリボナさんが一番楽な話し方で構いませんよ」

「おー、サンキュー。んじゃあ俺のことは苗字じゃなくてイグールと呼んで――」

「なんですか、アトリボナさん?」

「――く……あー、や、なんでもねぇっす」


 そっと目をそらし語尾へ行くにつれ弱々しくなっていく声音。となりでヒュドア・ウィルフィーアが楽しそうにけらけら笑っていた。

「イグールが初対面にやられてやんの、初めて見る」

 愉快そうでなによりだ。ちなみにイグールはほっといたら腹を抱えて笑い出しそうなヒュドアを恨めしそうに睨んでいる。


「えっと、ごめんなさい」

 テニーチェの謝罪に、ヒュドアが目元の涙をぬぐいながら笑い続ける。

「大丈夫ですよ、団長。ボクは団長が強いならなんて呼んでもらったっていいですからね」

「それでは、ウィルフィーアさん」

「はい、団長」


 ただ名を、苗字を呼んでみたかっただけなのに、返事をされた。はてまてなにか言うことはないだろうかとテニーチェは頭を捻る。まもなく、あっと気づいた。


「どうぞ、おかけください。アトリボナさんも」


 そういえば自分一人だけ座りっぱなしで、二人は立ちっぱなしだった。

 近くの椅子を進められたイグールとヒュドアは、片方はむくれながらもう片方はケラケラしながら腰をかける。そのままなし崩し的に宴で用意された食事に手を伸ばしながらの会話へ。

 お互いのことから、第七のこと。最後の方は魔道師団らしく魔道について話し合って、テニーチェの団長就任を祝う宴は過ぎていった。




 ☆☆☆




 就任二日目。

 テニーチェはさっそく第七王宮魔道師団の長として仕事を行っていた。主に、というか午前中ずっと執務の椅子に座って高く積まれた書類の山をさばいていた。緊急を要するものを別個でまとめてあったのは良かったものの、急ぎじゃないやつだと一ヶ月くらい前のもあった。大丈夫なのだろうか。

 途中から副団長を引っ張り出してきて手伝ってもらうも、昼までには終わらなかった。妙に顔をつやつやさせながら第七の訓練に参加していた副団長さん、テニーチェが顔を覗かせて手をこまねいたら地獄に落ちたような表情と感情を全身から醸し出していた。あれは絶対嫌だと拒否に拒絶を重ねていた。テニーチェも書類さばきなど、やりたくてやっているわけじゃない。


 お昼に第七専属料理人方々による美味しい料理をいただいた。今日の定食は魚の煮付けと魚の骨で出汁を取った野菜スープ、ごぼうと筍の炊き込みご飯にキュウリの浅漬け。ヒュドアが今日は家庭的な料理なんだねやらなんやら言ってたけど、テニーチェからすれば美味しいものは美味しいに変わりない。

 ほくほく笑顔でごちそうさまをした後は、苦い苦い書類さばきの時間だ。

 机の上がさっぱり片付くまで、さらに一週間もの時間がかかった。疲れた。




 そうして団長就任、一週間と一日後。

 ついにテニーチェは第七の訓練に参加することとなった。


 テニーチェが第七王宮魔道師団に与えられた大きめな訓練室に入っての一言目。

「皆さん、自由すぎませんか……?」

 炎の塊が目の前を通りすぎたかと思えば、すぐとなりで氷だけの山がひょっこり顔を出す。縦横無尽に飛んでる人もいたしなぜか地面を急速に潜っていく人もいた。

 なるほど、これが第七王宮魔道師団かとテニーチェから乾いた笑いがこぼれる。ちなみに副団長は、一週間(と一年)ぶりの訓練に、とち狂ったような笑い声をあげながら空に虹をかけていた。どこが訓練になっているのかがわからないが、それが彼なりの訓練なのだろう。大の大人がひたすら何本もの虹でわちゃわちゃしている映像は見なかったことにする。


 さすがのテニーチェにも、この光景が非常識であることはすぐに理解できた。こんなんでは各王宮魔道師団の特徴でもある集団魔道もまともに使えないのではなかろうか。いくらか同属性の魔道訓練を行っている者もいることから複数魔道までなら、まだなんとかなるかもしれないけれど。


 魔道は使用者の人数によって四段階にわけられている。一人のみで単体魔道、二人から九人までで複数魔道、十人から九十九人、つまり二桁で集団魔道、それ以上だと組織魔道という呼称になる。

 全てに共通しているのは、ひとつの魔道を作るという点。一人ではなし得ない複雑怪奇な魔道も、百人集まれば発動できるということだ。この王国も世界の一翼を担っているというもあり、第一王宮魔道師団では組織魔道を使うことができるとテニーチェは小耳にはさんだことがある。実際に見たことはないが、なんかとりあえずヤバイときにしか使われないくらいのヤバくてヤバイやつらしい。ヤバイヤバイ言いたくなるくらいヤバイらしい。

 そして他の魔道師団も集団魔道は使える。少なくともひとつは使えるように訓練を重ねていると聞いている。


 第七以外は。


 テニーチェが団長就任するにあたり与えられた任務のひとつにはもちろん、第七で集団魔法を使えるようにすることも含まれている。もうこれ、目の前に広がる無法地帯を集団魔法ですといって押し通しては駄目だろうかとひきつった笑顔を顔に浮かべる。その笑顔も仮面のせいで周囲には見えていない。

 はああぁぁぁ……と深いため息を吐く。テニーチェは己の頬をぱちんと叩いて気を取り直そうとして、勢い良く固い仮面に手が叩きつけられる。痛い。無駄に軽くてつけていることを忘れてしまう仮面が悪いと結論付けしておく。だが、手のひらの痛みでいくぶんかは気持ちが切り替わった。


 さて、騒々しいこの訓練場にいる全ての団員の注目を集めるにはどうすれば良いか。

 テニーチェは唸る。闇属性の魔道には、あまり派手なものはない。反対の光属性ならたくさんあるけれど、残念ながらテニーチェに光属性の魔道は使えない。他の属性のならば多少使えるが、と思考を進める。

 闇属性を主軸に、派手さを盛るための火属性の爆発系統とそれから……と悩んでいたら副団長の虹が視界の端をよぎった。あへあへしているあの副団長の技から案が浮かんだことはちょっと眉を潜めたくなるが、派手にするためには仕方あるまい。そもそも闇属性は実践向けの魔道なのだと心の内で言い訳をしつつ、水属性の虹も追加することにした。


 あとは、風属性で音量を上げて、それからそれからなどと考えて、ふと思う。

 団長就任後、まずは書類さばき、ようやく訓練かと思えば、ごっちゃがっちゃしてる団員たちの気を引くための魔道を一番最初に使う。


「……これは」

 はたして王宮魔道師団の長の仕事なのだろうか。


 数えて三秒ほど思考を止めたあと、考えちゃいけないことだなと無理やり納得させておいた。

 使用魔道のイメージはある程度できてきた。


 魔道を使うために、テニーチェは利き手の右手を宙にさしだす。仮面の奥で白銀の瞳が虹色に煌めいた。



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