十九 威力があれば良いというものでもない
テニーチェが頭を横に倒すと、すぐそばを剛速球な氷の弾が過ぎ去った。殺傷無しに二十八人の団員を倒すにはどうすればいのか。テニーチェはわりと攻めあぐねている。
とはいえ団員たちは普通の人なら死にかねないような魔道をばんばん撃ってくる。そりゃあテニーチェなら死ぬことは無いだろうけど、なんて思ってしまう。自分の魔道の威力が基本的に一撃必殺並であることは重々承知しているため、どうしても防戦から抜け出すことはできない。
とりあえず、ともう一度気絶させるための闇属性魔道を放った。なぜか警戒を解いてしまっていたらしい四人がその場でパタリ倒れる。今後も時折使っていこうか、なんて考えが浮かんでしまった。
まぁでもこの魔道に頼りっきりになっても勝利することはできないだろう。他の方法を考えないといけないのは、やはり変わらない。
どうするべきか、と絶え間なく襲ってくる魔道を避けながらテニーチェは思考を回した。
一撃必殺なものは、鋭く素早いなにかしらを放つ、というものが多い。もちろんそれだけではないが、ここでは鋭く素早いのが一撃必殺と仮定しておこう。
そうすると、一撃必殺じゃないのは、端的にいうなら、鈍くて遅いものだ。鈍すぎかつ遅すぎだと、そもそものダメージすら入らなさそうだが。
――ああ、けど。
「打撃部分の面積を増やせば、骨折させるくらいで済ませれそうですね」
口の中で小さく呟く。軽い身のこなしで細かい岩飛礫を避けながら思い付いたそれを反芻し、いけそうだと頷いた。
危険だから、狙うのは腹で。イメージとしては、腹パンの威力高いバージョン。
テニーチェの良く使う魔道に工夫を加えれば、任意の場所に衝撃を生み出すくらい、容易に可能だ。
なのでまずは、任意の場所を設定するために飛んでいる高度を上げる。上がりすぎても呼吸やら寒いやらで辛いから、全体が見回せるような高さに。
襲ってくる魔道が減ったことを良いことに、ガッと集中して団員の場所を覚える。
(人数が足りない……?)
土に潜ったりしているのか、それとも姿を消したりしているのか。生憎、近くで魔道が発動されたとかじゃない限りは魔力を感知するなんてことは出来ないため、すぐに見つけようとするのは不可能だろう。
(殺しが有りなら、非常に簡単に終わらせられるんですけどね)有りじゃないのだから、仕方ない。
視界で捉えきれる範囲で座標を設定していく。魔道を組み上げ、魔力で発動。
「――――」
音にならない声で詠唱すると、各々団員たちの腹辺りのすぐ前方に闇色の塊が生じた。大振りな岩程あるそれは、もちろんテニーチェによって作られたものである。
団員が、吹っ飛ばされる。
「――――」
追撃といわんばかりに、テニーチェはさらに唱えた。幾らかの団員は咄嗟に避けたようだが、十四人の団員はさらに遠くへと体を放り投げられる。トドメに詠唱を重ね、十四の第七団員を地面に縫い止めた。
五秒にも満たない唐突な攻撃に、避けたことでなんとか気絶を免れた彼ら彼女らは一様に身を震わせる。
一息ついたテニーチェは、右手を前に差し出した。それだけで、場に緊張が走る。なりふり構っていられないと考えたのか、あるいは威力を抑えなくてはならないと自制する暇さえなかったのか。テニーチェをアウウェン・トルス=ブロントロスの雷魔道が襲う。直撃すれば死を免れようのない、そして雷としての高速性も伴った魔道だ。
とはいえ近くで発動された魔道であることには変わりなく、テニーチェは他に思考を回しながらも難なく避けた。トルス=ブロントロスさんは雷属性の使い手。咄嗟の危機には対応できるような素早さを兼ね備えているのかもしれない、なんて。他の人も同じなのだろう。なら、こっから先を戦い抜くのは、さらに大変なことになる。
それにまだ、脅威は残っている。
地面の中か、姿を消しているのか、あるいは違う方法でか。視界にいない団員が、おそらく五人程いるだろう。見える範囲で気絶していない団員との合計は、七人。計算は合っているから、正しいことは正しいが。
「殺さない程度で、というのが」
やはりなんとも難しい。
氷属性の細かく鋭く、そして速い欠片たちをかわしながら、テニーチェはまた、溜め息を吐いた。




