十八 火、水、土、氷、雷、光、闇
テニーチェはクアットホワライトンの唐揚げを貪っていた。おおよそ四日前に瞬殺した二匹の肉を冷凍保存し、今朝揚げてもらったばかりのやつだ。出来立てほやほやというわけではないが、やはり美味しい。美味美味。
バケットに入った最後の一つを食べ、腕時計を見る。時刻はもうまもなく昼の十二時。最終日にて最終なる点呼、そして全体訓練が迫ってきていた。
顔をあげると、荒れ地には団員たちが集まってきている。目視で頑張って数える限り、どうやら全員集まっているようだ。しかもテニーチェ抜きで話し合いをしている。少し悲しみを覚えつつも、まぁ仕方ないかとわりきった。
理由はきっと、今日の全体訓練だから。
バケットを料理人のテントまで持っていく。宙に浮いての移動で、パッと行ってパッと帰ってきた。時刻は十二時まで残り数十秒。
じっと時計を見つめ、表記が十二時零分零秒を通り過ぎたことを確認して、テニーチェは拡声の魔道を発動させる。
「点呼の時間です」
ざわり蠢く第七団員。緊張からか、皆表情が強張っていた。
名前を読んでいくと、やはり硬い声で返事が返ってくる。ここまで真剣な第七王宮魔道師団は初めてかもしれない。それだけテニーチェとの戦いを待ち望んでくれている、ということなのだろう。
「――オッケーです。全員揃っていますね」
少し遅れて、空を覆っていた雲が切れる。二回目の全体訓練の時よりも晴れ渡った空が顔を覗かせた。
「それでは、始めましょうか」
再び、ぞわりと、緊張が駆け抜ける。
「ルールを説明します。とはいっても、とても明瞭な三箇条ですが」
一.敗北の条件は全員の気絶、または全員が敗北を認めた場合
二.殺人に達する魔道は使用しないこと
三.二に反しない程度で全力をもって挑むこと
「皆さん、準備はよろしいですか?」
どこからか唾を飲み込む音が聞こえてきた。
「では、――始め」
瞬間、テニーチェを色とりどりな弾が襲った。火、水、土、氷、雷、光、闇。実態をもたないものも混じっているが、おそらくはなにやらデバフの効果が付与してあるのだろう。
テニーチェは仮面の奥で目を細めると、軽く地面を蹴った。ふわっと浮き上がった体は、そのまま急速に天へと昇っていく。
弾は全て避けきった。
しかし中には追尾を付けているものもあったみたいで、直角に曲がってテニーチェを追いかけてくる。空にも数名の団員が既にいた。ここで一度反撃はするべきか、とテニーチェは下に視線を送った。
弾が全て消え去る。なにか唱えることすらしなかった。この類いの魔道は、テニーチェにとっては十八番も十八番。しっかりと消えたことを確認し、空に浮かぶ団員たちの位置をぐるり見回し把握して、今度は右手を振るった。
突如、空に浮いていた団員たち全員がバランスを崩す。ついでガンガンと雷を落としておいた。雷の魔道はあまり使ったことがない。というよりかは、普段は全力でぶっ放せばいいから、威力を下げる方法なんて知らない。考えたこともない。だから直接当てるのは三箇条の二に反する可能性がわりと高いが、牽制程度で当てないように落とすくらいなら大丈夫だ。
「……っ」
次はどうしようかと考えていたテニーチェは、急いで空を蹴り回避する。直後、どでかい岩の塊が降ってきた。魔道発動直前に魔力で感じ取れたから良かったものの、当たって地面に叩きつけられたら怪我では済まない気がする。
小さく息を吐き出す。もしかすると、動き続けた方が安全かもしれない。
もうスピードで空を舞いながら、団員たちに向けて気を失わせる魔道を放った。最初から使わなかったのは、おそらく対策を練られていると思ったから。今ここで使ったのは、気が緩んで通るかもしれないから。
闇属性で対人かつ殺さない程度の魔道としては有名すぎるこの魔道だが、難易度もわりかし高い上に防ぐのはそこまで大変じゃない。現に二、三人には通用したが、それ以外は変わらず立っている。
さてさてどうしたものか、とテニーチェは悩む。
手持ちの魔道の中で、殺人にはならないくらいの威力な魔道はあったかどうか。
もうちょっと真面目に作戦を考えておくべきだったかもしれない。クアットホワライトンの唐揚げを思い浮かべながら、テニーチェは深い溜め息をついた。




