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仮面をつけた王宮魔道師団の長  作者: 叶奏
合宿@四季魔境
13/95

十三 豚が食べたい



 快晴である。つい最近世界の一翼を担う王国が打ち上げたとかいうロケットすら見えちゃいそうなくらいに雲がない。合宿のこの先も澄みわたっていて順調に進むということか、なんてテニーチェがおひさまを目を閉じて味わっていたら、ゴンッと音がした。

 なにかと思って視界を開く。

 雹が降っていた。

 ピンポン玉よりずっと大きい氷の塊がテニーチェの周囲の地面を打ち付けている。打楽器で思い付く大きな楽器なティンパニの音に狂暴さと凶悪さと低音さを付け加えたような響きだ。もちろん音楽を奏でているなんかじゃない、不協和音すらも可愛らしいと感じてしまう恐さを秘めている。自分に当たらないようにと魔道を使いつつ、テニーチェは遠いどこかに目をやった。

 どうやら合宿も色々な難がありそうだ。


 団員たちは各々行動を始めている。そのせいかテニーチェの周りには料理人たち以外誰もいない。アージュスロをねだっていたアウウェン・トルス=ブロントロスもテニーチェの明日から攻撃でどっか違うところへ行っている。せめて今日一杯は団長である自分を除く形で行動してほしいというテニーチェの考えだ。

 そろそろ私も動き始めようか。テニーチェは大きく伸びをして、トンッと地面を軽く蹴る。

 気付けば透き通る青空に時おり謎の雷が落ちているなどという、よくわからない天気になっていた。


 魔道を組み上げ宙に浮かび上がったテニーチェは雷に当たらないよう気を付けつつ、下を見回している。目的は単純。生き物(たべもの)探しだ。クアットホワライトンという豚が見つかればいいなぁ、なんて考えている。豚は豚でも、首を傾げたくなる狂暴さを兼ね備えているらしい。まぁ、空中から魔道で狙い撃つのなら関係の無い話だ。

 ふよふよと進んでいく。途中何度か季節が変わり、ようやく荒れ地が終わりを向かえた。広すぎる。クアットホワライ魔境が広大であることは知っていたが、想定より大きいかもしれない。

 時折目にした木の実やらきのこやら菜っ葉やら鳥やら兎やらを採取しつつ進んでいく。第七の団員とも何度かすれ違って、みんな笑顔で手を振ってくれた。時々馬鹿げた威力の魔道が飛んでくることもあった。テニーチェも笑顔で手を振り返しつつ、飛んできた魔道は打ち消してついでに反撃もしておいた。笑顔は仮面で見えていなかったけど。表情が他の人に伝わらないところは難点だよなぁ、なんて考えながら、秋が過ぎ去り夏が照らし冬が降り積もって、春が暖かく包んで。クアットホウライ魔境をグルっと一周する頃には日が沈んでいた。


「今日は見つかりませんでしたね……」

「俺は食いモンなんぞ食わねぇから関ケェねぇがな」


 途中から竜もどきの形を取って併走していたアージュスロがケケケッと笑った。口はないのにどっから声が出ているのかは別段謎なことでもないが、不思議に思える程付き合いが浅いわけでもない。第七の皆が疑いもせず当たり前のように会話していたのにはビックリしたが。

 バスを降りた場所まで戻ってきたテニーチェは、料理人テントへ食材を渡しに行く。魔道訓練のための合宿のはずなのに、今日は空に浮いて冒険とも呼べない探索をして終わった。魔道は使っていたし良しとしておこう。


 三十分もしないうちに料理が手渡される。さすがはプロの料理人。テキトーに採った食材なのにものすごく美味しそうな香りがしていた。

 魔道で地面を綺麗にして直接座る。椅子とかを作れればいいのだが、生憎テニーチェは魔道で作ることは出来ない。空間圧縮のカバンか何かに入れてこれば良かったかもしれないが、今さら嘆いたところで遅い。代わりに雑菌やらを出来る限り無くした荒れ地の上で夕食を始めた。

 今日は主食といった主食はない。パンも白米もとうもろこしもなかったのだから仕方ない。主菜たる焼き鳥を丸々一羽分、美味しく頂こう。付け合せの菜っ葉ときのこの和え物も非常に旨かった。

 明日は今日見つけられなかったクアットホウライトンを狙っていきたい。


 夜は敵襲を防ぐための魔道を設置した空間の中で寝て、翌日。

「団長様! つっぎの日になりましたわっ!」

 起床後早々アウウェンの煩い声が荒れ地に響き渡った。寝起きで機嫌の悪いテニーチェは、その不機嫌さを隠そうともせずに言ってのける。


「クアットホウライトンが狩れたら、アージュスロも含めた合同訓練を許可します」


 どうしても豚が食べたかった。


 とはいえ、昨日クアットホウライ魔境を見て回るついでにほぼ一日かけて探しても見つからなかったのだ。そうそうに発見するわけもない。

 テニーチェはアウウェンに言ってからそう思った。

 団長として、訓練を優先するために撤回するかどうかを迷ったが、狩るための探索で魔道を使うことも訓練の一つになるかと考えやめておいた。決してクアットホウライトンが食べたくて食べたくて仕方がなかったわけではない。


 だが、そんなテニーチェの予見はあっけなく崩れ去ることとなる。


「団長様っ! いまっしたわぁ!!」


 ちょうど太陽が真上に昇った頃。

 アージュスロと訓練がしたくてたまらなかった欲望が成せた技なのか、アウウェンはクアットホウライトンを見事発見した。ちなみにクアットホウライトンはここ四季魔境で有名かつ美味たる食材だが、レア度もかなり高いという高級な豚さんでもある。


 アウウェンの見つけたクアットホウライトンに向け、テニーチェは無言で容赦ない一撃を繰り出した。テニーチェの使える魔道の中でも殺傷能力がずば抜けて高く、対象に余計な傷もつけないものである。どれだけ豚が食べたかったのか。

 標的となってしまったクアットホウライトンは死んだことにも気づかずぶっ倒れる。

 昼食はとても豪華で、そして今までで一番美味しく記憶に残るものになったのであった。



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