十二 ひっちゃかめっちゃか爆発っ!
何度か休憩所に寄りつつ、運転手も何度か変わりつつ、クアットホワライ魔境への長旅は一週間と三日で終わりを向かえた。
さすがは第七王宮魔道師団。貸切バスに乗ってわずか二時間もしない内に魔道訓練ができない息苦しさに喘ぎ始めていた。終いには全ての団員からバス内で魔道を使うことの許可を求めてきたものだから、テニーチェは仕方なしにバスの運行を妨げない程度での魔道使用に許可を出した。休憩所でも満足いくだけの魔道を使うことはできないも、ある程度は使える。それでも威力に制限がかかった状況下では鬱憤も溜まりに溜まって。
「…………」
バスから降りた途端に、皆一様に魔道をぶっ放し始めていた。バスの方向に向けないだけの理性は残っているみたいだが、それにしても収拾のつきようのない状況とはこのことをいうのかと無言で納得してしまうほどの光景だ。クアットホウライ魔境の特徴と相まって、はっちゃけた様子はさらに爆発している気がする。
ひとまずすぐに落ち着けるのは無理そうだと結論付けたテニーチェは、バスの運転手と事務的なやり取りを交わす。また一週間後と言って運転手はバスに乗って去っていった。
その間にある程度は鬱憤も晴らせたのか、団員たちの魔道もそれなりには収まってきている。
「皆さん、注目!」
他の魔道に負けぬ大きさを魔道で引き起こし、拡声でテニーチェは連絡事項を伝えるために話しだした。まだ話を聞いていなさそうな数名には、耳元の爆音を差し上げることにする。ようやく視線がテニーチェに集まった。まだ合宿も始まってすらいないのに、なぜここまで疲れているのだろう。なんならさっきまではバスの中ゆったり座っていたはずなのに。
洩れ出そうな溜め息を引っ込めて、あらかじめ考えて置いた連絡事項を最短にして告げていく。基本は野宿。素材を料理人のところへ持っていけば調理はしてくれるが、料理が勝手に出てくることはない。
また持参したテントは料理人と怪我・体調不良者用のもので、寝る時は焚き火やらなんやら囲って地べたに寝る。嫌なら木の上でもいい。
「今回の合宿では、今からの点呼と三日後の点呼、一週間後にあたる最終日の点呼時以外は自由に動いていただいて構いません。なお、点呼後にはそれぞれ一時間ほど全体での訓練もあるので、必ず、必ず! 点呼の日時には遅れないよう集合してくださいね。
万が一点呼に来ない方、遅れている方がいらしたら、そのときは問答無用で強制的に脱退していただく可能性が高いため、お気をつけください」
団員たちには持ち運び用の時計をかねてより配ってある。この時計には万が一の時の緊急連絡も兼ね備えている優れものだ。所持者あるいは周囲の誰かが手動で知らせる他、所持者が心肺停止等あらかじめ設定してあるすぐに助けが必要な場合に陥った時は自動で他の人に知らせが飛んでいく。
全員の時計が繋がっていて、かつ魔力を用いた位置情報も共有できるようになっているため、緊急時はその位置情報を頼りに一番近くにいる人が救助に向かう決まりとなっているのだ。
「それでは、一番最初の点呼を開始します」
テニーチェが張り上げた声で続ける。団員たちも早く個人訓練に入りたいのか、はたまた団長様が怖いだけなのかは不明だが、点呼はトントン拍子に終わった。
「一番最初の全体訓練を始めます。今回は私たちの集団魔道である世界変革、全力の発動です」
以前までの訓練場で初めて成功させた時は世界を壊せるだけの威力で止めた。それでも吹き抜けになっている空へ向かって出ないと被害ゼロでは抑えきれなかった。
二回目の発動、世界破りの時は、万が一自動で設定してあった転移魔道が発動しなかったときに備えて各々が力を温存した状態だった。
だが三回目となる今回。
いくらこれから野宿が始まるとはいえ魔力の回復を待つだけの時間はある。ご飯もバスの中で食べたばかりだから、飢えとて気にならない。なんなら水分は全員が持ち運び用のボトルで持ってきている。テニーチェはリンゴジュースだ。前回の補給の時になんとなくリンゴな気がしたかはそうした。
「前回の発動からそれなりに時間は経っておりますが、早く終わらせるためにも素早く始めましょう」
テニーチェの号令に皆が一様に頷く。
「目標は荒れ地な平地であるこの場所」
広さは十分。
空に逸らさなくとも、空に届くだけの魔道を。
「さぁ、いきますよ!」
副団長の放った幾多の色付き光が道標となる。小さいとはいえ世界の力を越えれるだけの破壊力を持つ集団魔道を練るために、それぞれがそれぞれの役目を果たしていく。
火は熱に。水は調整に。風は振動に。
光は在。闇は無。
雷が直接的な破壊力へ。氷が間接的な潤滑剤へ。
力はやがて収束し。
第七は大きく息を吸い込む。
「世界変革」
轟音。
爆風。
光を得すぎて白となった空間。
威力へと変換され過ぎて黒となった中心。
世界は晴れる。
「お見事です、皆さん」
声をかけたテニーチェの視界に映ったのは、魔力欠乏でふらふらと倒れかけている第七王宮魔道師団の姿。
世界変革のせいか、前に広がる荒れ地に残っていたはずの草は全滅していた。




