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信じる心と許嫁

ここで1章は終わりです


ありがとうございます

 僕と留美はしばらく静かに歩いていると、後ろから声が聞こえてくる。


「光範様~」


 南美の声だった。うれしそうに聞こえてくる彼女の声がどこか作っている風に聞こえ、僕はただただ寂しかった。

 僕は振り向かず、すたすたと歩く。


「え? 光範様?」


 彼女は戸惑いながらこっちに来る。きょろきょろと顔を覗かせにくるが、僕は顔も合わせたくなかった。僕はそっぽを向く。


「……光範様に何かあったの?」


 彼女は留美に聞くと、留美は怒りまじりの口調で言う。


「私に話しかけないでよ…。最低ね、あんたには幻滅よ…」

「……!?」


 しばらく間があったが、彼女はまた留美に話しかける。


「ねぇ、何があったの? 何があったかだけでも話してくれない?」

「……自分の心に問えば?」

「分からないから訊いているのよっ」

「はぁ!? あんたねー、ミー兄に隠して……」

「留美! …………話しかけるな」

「……」

「光範様……」


 そして僕は南美を置いて、留美とアパートまで帰った。そっからの記憶はあまり残ってない。部屋に戻ってから何をしたか、どうしたかもだ。ただぼ~としていたのかもしれなかったが、憶えていない。

 ごはんを食べてから部屋で椅子に座っていた頃であろうか、ノックが聞こえた。


「……はい」

「光範様、失礼します」

「!?」


 なんと南美が入ってきたのだ。さすがの僕も度肝を抜いた。そしてまだ彼女は制服姿のままだった。


「な……何、……いや今更何しに来たんだ?」

「光範様に教えを請うために参りました」

「……何?」

「どんなに考えても光範様にここまで不快な思いをさせた記憶がございません。しかし光範様に嫌われるほどのなにかしらの落ち度が(わたくし)側にあったということ。なにとぞ教えてください」


 彼女は正座をし、深々と頭を垂れる。床についた手は震えて、ポタポタと涙がこぼれ落ちていた。


「お、おいっ、泣いているのかっ?」

「泣……泣いておりません……」


 しかし声も震わして明らかに泣いていた。その彼女の振る舞いに全然演技らしさはなく、噓偽りも感じなかった。しかしそれならあの写真はどうなる? どう説明するんだ?


「なー……君と付き合っていると名乗る男から、二人で仲良く撮っている写真を見せられたんだ」

「……は?」


 きょとんとする声だった。まるで何のことか分からない風な声で。


「な、何ですかそれ?」

「いやいや、それは僕が訊きたいよ。なんなのか、あの写真は?」

「……いや、全く心当たりがないですね。そもそも私は彼氏はおろか、男子と二人きりでどこかに出かけたことが一度たりともありません」

「へ? ……いや、まさかまさかっ、じゃああの写真はどう説明するんだ!? それにそいつは君の彼氏だって!?」

「だからそんな男は向こうで一人もいませんでしたし、写真だって……写真?」

「?」


 彼女は少しうつむきながら手を口のところにおさえる。


「どんな写真とおっしゃってましたっけ?」

「だから二人が仲良くピースしている写真だよ!」

「私が男子と仲良くピース……まさか…」

「ん?」


 彼女はなにか思い浮かんだのか、はっとした表情をする。


「……これは少し調査しないといけませんね」

「え?」

「一度実家に戻り、調べて参ります。光範様は少し待っててください」

「え、おいっ」

「……あっ、それと」


 彼女は立ち上がって、ドアの方に行こうとしたと思えば、すたすたとこっちに来て、僕の顔をぐいっとおさえる。


「私の目を見てっ」

「え?」

「私は光範様を好いて愛しています。この身は他の誰のものでもない光範様だけの身体です。それは仏に誓って今でも変わりません」


 彼女の目は真に迫るまっすぐな瞳だった。


「……」

「では光範様、少し休学するのでその旨を先生に伝えといて下さい。それでは待っててください」

「……あ」


 そう言って彼女は僕の部屋から出て行った。僕はただ呆然とするだけだった。

 それから数日だっただろうか、僕は学校の階段から転げ落ちた。幸いケガはかすり傷程度で、保健室程度で済んだ。


「なにぼーっとしてるの?」

「すみません……」

「これで良しっ」

「ありがとうございました……」

「じゃあ次は階段に気をつけてね」

「…………あの先生」

「ん? なに?」

「その……とある女子に彼氏がいるかどうかという問題がありまして……」

「え、なに? 彼女のこと好きなの?」

「いや、まだそこまではいってないのですが……」

「ふーん、そ」

「……その子の言葉をどこまで信じてやれば良いか分からなくて……」

「なるほどね~悩みの青春だね~。若いわ~~、私もそんな時期あったわね~。それで、あなたはその子のことどこまでちゃんと分かってあげているの?」

「え?」

「気になる女子なんだから、ちゃんと見てるんじゃないの?」

「それは……」


 確かに転校してからは彼女に押されてばかりで、彼女のことをちゃんと見てあげれてなかったことに遅ばせながら気づく。


「はぁ~、駄目よーそれじゃあ。いい? 女の子の感情っていうのは複雑なんだから、まずはその子のことをちゃんと自分の目で見て、それから彼女のことを考えてあげなさい!」


 そう瀬戸先生に叱咤され、僕はその彼女のことを思い出しながらクラスへと向かった。

 それから2日経った夕方のことだった。下校中に“やつ”が現れたのだ。


「どうだ色男、南美ちゃんにちゃんと別れを告げたか?」

「……あぁ、残念ながらまだ別れてない」

「なにっ!?」

「あの写真をどうやって撮ったかは分からないが、やっぱりあいつが嘘をついているとは思えない。だから僕は彼女を信じることにした」

「~~~~っ! て、てめーになにが分かる……。てめーに……、てめーに南美ちゃんを渡せるかーー!!」


 彼は拳をグーにして、僕に向かってきた。


「待ちなさい!!!」


 彼の後ろから大きな声が響き渡る。そっちの方を見ると南美が少し息を切らして立っていた。


「なーちゃん……」

「上村さん……」


 彼女はこっちに近づいたと思えば、彼の頬に猛烈な平手を打ちこむ。パチーンと響き渡り、いかにも痛そうだった。


「……あなた橋川君ね?」

「……」


 彼はなにも言わなかったが、彼の反応からしてそんな感じがした。


「誰が私の彼氏ですって?」

「そ、それは……」


 彼は顔を下に向いて動揺している。そして南美はかなりの眉間に皺が寄っている。


「あなた、ここ数週間前から高校をサボりがちなそうじゃない?」

「……」

「確かにあなたとは中高からの交流はあるわ。でもね、それはあくまで同級生だったからよ」

「だ、だから親が勝手に決めた許嫁となんか付き合ったりしたら、上村さんが不幸になると思って……」

「私は私の意思でこっちに来ました。それにあなたには全く関係のないことよっ!」

「で、でも……」

「写真まで加工して、その上光範様を殴ろうと……。次にまた光範様に危害を加えるようなことがあれば、警察に通報するわっ」

「……」


 さすがの彼も観念したのか、この場から去って行った。


「頭のお怪我は大丈夫ですか?」

「あぁ、これは学校でこけただけだ」

「まぁ」


 そして彼女は手に持っていたファイルから数枚の写真を取り出した。


「この中に見た写真はありますか?」

「これは……」


 確かにその写真はあったのだが、8人程度の生徒が集まって撮っていた写真だった。


「これは去年の文化祭の打ち上げの時の写真ですね」


 なるほど、確かに南美と彼は机を挟んで隣同士でピースしていた。そういうことだったのか。


「これで分かって頂けたと思います。……信じていただけましたか……光範様!?」


 僕は彼女に抱きついた。真相が分かった安堵感と信じて良かったという気持ちでいっぱいになる。


「あのさ~、なーちゃん……」

「は、はい……!?」

「別れてから7年の間のことを僕は全くしらない。だから少しずつでいいからお前のことを教えてくれ」

「! ……はい」


 僕は彼女からの温もりを感じながら、幸福感に包まれた。


「ふふっ、光範様~……あっ」

「ん? どうしたなーちゃん?」

「後ろ……」

「ん?」


 振り向くと妹と幼馴染がこっちを睨みながら立っていた。


「こんな道ばたで何しているのかしら、ミー兄?」

「心配していたのに、随分良いご身分なことね、ミー君?」

「えとー、これは~~……てへっ♪」

「ミー兄(ミー君)の馬鹿ーー!!!」

「ぎゃーー!」


 僕もまだまだだなー。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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