とある男
久しぶりの投稿です
宜しくお願いします
留美のケガは大分良くなり、痛みは和らぎ、松葉杖なしで彼女は友達と部活見学を始めていた。
「あっ、ミー兄~~」
「お~、留美か」
放課後、僕が帰るときに留美とばったり校内で会った。
「今から帰るの? …………南美さんは?」
「今日は学校の用事で居残るって」
「……ふーん、そうなんだ」
彼女は周りを少しキョロキョロと警戒して見ていたが、なにかを確かめ終えたのか、表情を改めて、とても嬉しそうな顔になった。
「じゃあ、久しぶりの二人っきりだね!」
「家でも二人の時があるじゃないか?」
「むー、家と外とは少し違うのー」
彼女の少しむくれた顔を見ながら、一緒に下校する。思えば南美がこっちに転校してから、結美と留美の態度が変わった。
僕への(少し重たい)愛情表現が増えたことだ。
いままで学校では二人の接触がなかったので、ケンカすることはなかった。せいぜい登校時と、留美といる時にたまたま結美とばったり会った時くらいだ。
しかし今はこんなことになっている。だから前よりも過激になって少々疲れる。
「それで部活は決まったか?」
「う~ん、書道部とテニス部で悩んでる」
「この前まで受験生だったんだ。そのなまってる体を動かせ」
「むー、ミー兄の意地悪」
留美は少しいじける。こうして妹と二人で楽しむのはいつ振りだろうか。僕が中二の時以来かな?
そう彼女と遊んでいた頃の思い出に少し楽しんで浸っていると、おいっ、と前から少し強めの口調で声をかけられる。
「え?」
正面を見ると高校生らしき男子がこっちを睨みながら立っていたが、この辺では見たことのない制服だった。
「えーと……君は?」
「……」
しかし返事がない。
「知っているか?」
と留美に問うたが、彼女は即座に顔を横に振る。僕も昔の記憶を少したどってみたが、彼を見た記憶がない。
「えーと、何かな?」
「……」
しかし一向に返事はない。だが明らかに敵意をむき出しにしながら、僕を睨んでいる。どうやら用があるのは僕の方だった。
「留美、先に帰れ…」
僕は小声でそう言ったが、彼女は不安そうにこっちを見ながら、首を横に振る。
「けどここにいてはどうなるか分からんぞ?」
「ミー兄のそばを離れるのが怖い……」
「……」
留美は僕の袖をぎゅっと握る。彼が敵意を明らかに示しているのは僕だから、留美は関係ないとは思ったが、甘い考えか? さて、どうしたものか…。
「……クソ、他の女といちゃいちゃしやがって…」
「え?」
「いいか!? 俺は南美ちゃんと中高の時から付き合っている男だっ!」
「え……?」
……付き合っている? ってことはなーちゃんの彼……氏?
「……けど、そんな話は聞いて……」
そして彼はなぜかニヤリと笑う。
「そりゃそうだろ? そんな話、普通“許嫁”とやらには言わないだろうよ?」
「なにっ? どうしてそのことを……!?」
「彼女に許嫁がいるなんてのは向こうの学校では有名だったからな~……」
「……」
なんでそんなことが学校で有名なんだ? いや、それより……、
「付き合っているってことは、今でもまだ交際しているのか?」
「……そうだよ、当たり前だろ?」
まさか……彼女はあんなにも僕のことを尽くして……、だが確かに僕は向こうでの彼女のことは全然知らない。
「彼女も辟易していたみたいだっだぞ?」
「え?」
「許嫁なんてのは親が決めたことだろ? 彼女もさぞ迷惑だったんじゃないのか?」
「そんな、まさか……」
僕は彼の言葉に翻弄される。じゃあ今までの彼女の僕への言動は一体……。
少し間をおいてから僕は彼に問う。
「……証拠はあるのか?」
「なに?」
「なー……上村さんと付き合っているという証拠だよっ?」
彼は待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに口角を上げ、僕にスマホの画面を見せた。それは彼と南美が笑顔でピースしている写真だった。
「どうだ、これが証拠の写真だ!」
「……」
確かに二人で仲良く写っているように見えた。かなりショックだった。
「どうだっ、これでもまだ疑うか!?」
僕はこれ以上反論が浮かばない。
「ふっ、これで分かったと思うが、俺は南美ちゃんを心から愛している。南美ちゃんもだっ! それで、てめーはどうなんだ!? え!? 他の女にヘラヘラしやがって、彼女のことを本当に愛しているって言えるのかっ!?」
愛しているとまで言われればどうだろうか。僕はすぐに答えられない。しばらく無言だったからか彼は僕の胸ぐらをつかんで、
「その程度の質問で即答出来ないなら、彼女との許嫁なんか解消しろっ! 僕の南美ちゃんに手を出すな!」
彼は吐き捨てるように言うが、僕は何も答えられない。そして僕の胸ぐらをぺっと離し、
「また来る。その時は南美ちゃんと別れとけよ!」
そう言い捨てて、彼はこの場から去っていった。僕は思考が回らず、頭の中は真っ白になっている。
「ミー兄……」
ただ留美の声が聞こえるだけで、他は何もできなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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