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南美と結美のクラスでの口論

少し一騎打ちです


6話です

 保健室にある松葉杖を借りて、1限目の終わるチャイムが鳴る少し前に僕達は部屋を出て廊下を歩き、それぞれのクラスに行く道の岐路に着く。


「ここで別れるが大丈夫か?」

「もー、ミー兄心配し過ぎっ。大丈夫よ、心配しないで」

「……分かった。じゃあ僕はこっちに向かうが、また何かあったら連絡してくれ」

「うん!」


 そして僕達はここで別れて、2時限を受けにクラスへと向かった。チャイムが鳴る頃には丁度クラスに着いた時だった。


「光範様っ」

「ミー君!」


 南美と結美は僕のところに急いで来て、心配の表情を浮かべていた。


「留美さん(ちゃん)は……?」

「大丈夫。保健室に連れて行ってから、自分のクラスに行ったようだから」


 そうしたら二人はようやく安心したのか、ふうと息をついた。


「それなら良かったわ」

「えぇ……」

「そう……なら……」

「ん?」

「今はあんたと一騎打ちになりそうね」

「え!?」

「……えぇ、そうなるのかしらね」

「お、おい、お前達……?」

「大体さー、ミー君の許嫁だからっていきなりこの町に現れて、すっと彼の隣に居ろうとすること自体が、そもそも気に食わない話だわ」

「そうかしら? 許嫁なら当たり前の話じゃない?」

「許嫁だからって調子にのらないでって言ってるの!」

「!」


 結美はキッと怒髪天のように南美を睨む。周りの生徒達がざわざわし始める。


「お、おい…」

「あんたはミー君とはもう数年も会ってないって言ってたっけ」

「…そうね。もう7年くらい経つかしら」

「ならそれ以前もその間も私はミー君とよく遊んだわ。公園に行ったり、遊園地に行ったり、ショッピングに行ったり」

「……」

「学校での思い出も沢山ある。修学旅行、運動会、クラブ活動とかね。貴女にはそういった思い出がないでしょ?」

「……確かに光範様とは今までずっと過ごした町が違うかったから」

「そうよ! だからあんたと私とではミー君との思い出の量が全然違うの! これが幼馴染の強さよ! 許嫁だからっていい気になってたら足元すくわれるわよっ!」

「……なるほど、確かに長い年月をかけた貴女と光範様との思い出の共有の量には勝てないわ」

「でしょ?」


 結美は満面の笑みを浮かべている。しかし南美もそれで落胆している訳じゃなかった。目には強い意志を感じる。


「だからってそれで私が貴女に負けた訳じゃないわ」

「何ですって?」

「私は彼を許嫁として思って生きてきたから、彼と結婚して生活することを意識しているの」

「それってどういう意味?」

「私は常日頃から家事や生活での心掛け、光範様の好みを今まで気にかけていたの」

「……」

「だからこれからの未来設計図を特に立てずに、光範様とただ一緒に過ごすだけの貴女とは覚悟が違うの」

「何ですって!?」

「何よ?」

「お、おいお前達落ち着けって! 周りが見てる……」

「ミー君は黙ってて!」

「光範様は少し黙っていて下さい!」

「…………」


 二人は必死の顔になっている。そんな険しい顔でこっちを見られては言い返しも出来ない。そして二人は次の授業のチャイムが鳴るまで言い合う。その後は流石にしゃべり疲れたのか素直に自分の席へと戻る。

(これはなんとかしないと……)

 僕はこの授業中に彼女達を止める作戦を色々と考えてみた。それぞれの方をちらっと見てみると、結美は腕組みをして不機嫌そうな顔をしており、南美は南美でノートを書いてはいるが、顔は大分冷静な表情になっていた。

 そして2限目の授業が終わると、休憩を終えたボクシング選手のように結美は体をストレッチしながら南美のところに行く。


「じゃあ、まだ終わってないから始めましょう……」

「待って下さい」

「……何よ?」

「これ以上ここで口論すると光範様に恥をかかせてしまうわ。(わたくし)を冷静さを欠いていたわ。これは恥ずべきこと。場所を変えましょう」

「! えぇ、そうね……」


 そうして二人はクラスから出て行き、僕は二人を追う。季節は春というのに気温は少し暖かく、窓から見える校内の桜の木はもう緑色になっていた。

 結美が南美を案内した場所はクラスから数分の所だが、人がまったく通らない1階の外を通る廊下の死角だった。


「ここなら目一杯言い合えるわ」

「……そうね。それにしてもよくこんなところ知っていたわね」

「それは……まぁ女のあれよ。女の秘密の場所よ」

「そう……なら始めようかしら」

「なに二人して闘志に燃えているんだっ。なっ? なーちゃんも少し落ち着けよ」

「しかしここで下がってしまっては許嫁として、いえ女が廃りますわ!」

「そうよ。これは女同士の闘い、ミー君は黙ってて」

「…………」


 どうしたものか……。この二人を止められるのは一体誰か……、


「ちょっと待ちなさい!」


 そう響く声で言ったのは、松葉杖をついている右膝に包帯を巻いていた女子だった。


「る、留美!?」

「!?」

「留美ちゃん!?」


 彼女は慣れない杖をよたよたとつきながら右脚を上げてこっちに近づいてくる。


「お、おい、留美?」

「大丈夫、ミー兄。心配しないで。……二人とも落ち着いてっ。ミー兄が心配しているじゃない。二人はミー兄を困らせるために学校でケンカしているの?」

「え? そんなことは……」

「それは……」

「なら初めから学校でケンカするのは止めてっ。心配しているミー兄の気持ちになってよっ!」

「……」

「……」

「留美……」

「……っていうか、そもそも私をそこから置いていかないで!」

「…………へ?」

「ケンカするなら、家に帰って私も交ぜてよっ!」

「お、おい……留美……?」

「ゴメンね。ミー兄」

「え?」

「口喧嘩は女の宿命なの」


 その時校舎の3限目のチャイムが寂しくキンコーンと鳴った。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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