怪我
いわゆる3つ巴というやつです
5話です
3人で登校する、それはつまり……
「ここは私の場所よ! あんたはここじゃないわ!」
「こっちも違うわよ! ここは私の場所なんだから、留美ちゃんの方に行ってよね!」
結美と留美はいつものようにそれぞれの僕の腕を取って左右を歩くもんだから、南美が僕に近づける場所はない。
「なるほど……。普段からそう歩いてるんですか」
南美は真顔でこっちを見ていたのに、次第にジト目になっていく。これは彼女が妬いている時の目だ。
なーちゃん怖いよ~。
「けどそんなスピードでは学校に間に合いませんよ?」
「あっ、そうだ。急がないと!」
「え? うん、そうね」
「あ~、ミー兄待ってよ~」
僕は二人の腕を振りほどいて、急いで学校に向かう。まず結美はテニス部ゆえに走るスピードは僕より早く一番前を行く。次に留美はつい最近まで受験生で体力低下だからか走るスピードはそれなりに遅く、僕の後方をはあはあ言いながら走っている。そして南美はというと僕にスピードを合わせて僕の隣を顔色一つ変えずに走る。
「なーちゃん、体力あるな」
「これぐらいのスピードなら大丈夫です。それに……」
「え?」
「やっと光範様のお側になれたので」
彼女は僕の手をそっと取り指をからめて恋人つなぎをしてくる。僕はあの二人にですらされたことなかったので、かなりドキッとする。
「はぁ、は…、あっ、ちょっとっ!」
「へ? はぁー!? ちょっと何やってんのよ!? ズルイわっ!」
結美はスピードを落とし、留美は頑張って跳ばして二人とも僕に近づいてくるが、その時ガッとする擦れる音がした。
「キャッ」
後方から叫び声が聞こえてくると思ったら、ド、ズーッという鈍い音と地面を擦る音が聞こえた。
「留美!」
「いった~~いっ」
左脚は大したことはなかったが、右膝をかなり擦っており、血が出ていた。
「留美、大丈夫か?」
「留美ちゃん……」
「留美さん……」
二人も彼女の所に心配そうに駆け寄る。気持ちは有難いが、このままじゃあ皆が遅刻してしまう。
「悪いが二人は先に学校に行っててくれ」
「え、でも……」
「このままじゃ皆遅刻してしまう。留美を連れて行くのに僕一人で充分だ。二人まで遅刻する必要はない」
「しかし……」
「なーちゃんっ」
「!」
「結美を頼んだ」
「! ……はい、分かりました。それでは行きましょう、結美さん」
「え、でも……」
「光範様がそうおっしゃっているし、私達まで遅刻する必要はないわ」
「でも……」
「私達が遅刻してしまうと、折角かって出てくれた光範様に申し訳が立たないわ」
「……」
「さっ、行きましょう」
「……分かったわ」
そう言って二人は学校の方に走って行った。
「大丈夫か留美?」
「ごめんなさい。私のせいでミー兄に迷惑をかけて……」
「そんなこと気にするな。遅刻ぐらい訳ないさ」
「……ありがと」
「よし、立てるか?」
「うん……」
そうして僕は留美の腕を担いだ形で一緒に彼女と歩く。
「もう少し体重かけて良いぞ?」
「え? うん。分かった」
ぎゅっとこっちに重心がかかってくるのが分かるが、そんなに重たくなくむしろ軽い部類だ。そして一緒に一歩一歩歩く。
ふと留美と出会った頃を思い出して、まさかここまで仲の良い関係になるとは思いもしなかった。初めの頃はお互いに距離もあったし、彼女も慣れない所に来たから戸惑ったりもしていたが、あれ以来僕を徐々に信頼してくれるようになった。
「大丈夫、歩けるか?」
「うん、大丈夫」
「そうか」
そしてしっかり二人して学校に遅刻し、僕は留美を保健室に連れて行く。
「あらあら大丈夫?」
初めて保健室に来たが、なかなか若い先生で、カップを持って椅子に座っていた。
「じゃあここに座って」
留美を先生に対面している丸椅子に座らせる。その保健室の先生は背中まで伸びた黒髪にシンプルに4:6に分けた前髪、白衣を羽織りタイトな黒のスカートを穿いた綺麗な女性だった。
消毒が染みて痛そうにしている留美に治療をする彼女に僕は少しだけ見惚れてしまう。
「はい、出来たわ」
「ありがとうございます」
「そんなにスカートを短くするから膝を怪我するのよ」
「えー、先生だってそれなりに短いじゃないですか~」
「先生は良いの。大人だから」
「え~、何ですかそれー?」
「ふふっ、何でもないわ。それより1限目終わるまでまだ30分あるけどどうする?」
「え? ……と、そうですね……、どうする?」
「え? うーん、もう授業に行っても仕方ないし、休もうかな?」
「それじゃあ、ベッドまで連れて行くよ」
「え……? う、うん……」
そして僕は彼女をベッドの方まで連れて行く。
「あら、優しいのね。二人は恋人同士?」
「え? そう見えます……」
「…違いますよ。僕達は兄妹です」
「あら、そうなの?」
「……(むー)」
「まぁ、授業が終わるまでまだ少し時間があるんだ。しばらくここでゆっくりしようぜ」
「……うん」
そして僕は留美が寝ているベッドの近くにある椅子に座り、カバンから本を取り出して読んでいると、留美が声をかけてくる。
「ねぇ、ミー兄……」
「ん? どうした?」
「私の近くに……いてよね?」
「え? …ふっ、そんなの当たり前だろ? 僕はお前の兄貴なんだから」
「! ……うんっ」
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