結美の指南
マイペースな彼女も素晴らしい
38話です
「おはよー」
「……おぉ、おはよう」
朝、留美は少々無愛想に僕を起こす。昨日のあの目となにか関係あるのだろうか。僕と留美の間にも少し気まずい空気が流れる。
ふむ、留美のことも気になるが、今は南美との仲もどないかしないと…。
南美との許嫁解消問題。単に許嫁関係を止めるだけではない。僕と南美とのそもそもの関係性に大きく関わる問題だ。どこまで彼女は本気に考えているのだろう。けどあそこまで悩んでいるのなら、やっぱり……、
「ちゃんと彼女の真意を確かめないと……!」
僕は気持ちを新たにし、制服に着替えた。そして玄関で待っている留美と一緒にアパートの外に出た。
「おはよう、ミー君」
「おはようございます」
「…おはよう、ございます」
とりあえず三人待っていることに僕はホッとした。
「おはよう、じゃあ行こう」
「うん!」
そして登校中新たにいつもと違う空気を出す留美が加わって、一層気まずい空間になる。ちらちらっと南美を見ても、一向にこっちを見ずに佳純と話しているし。留美は留美でなんだかいつもの覇気がない。結美がいつも通りの距離感なのは助かる。
この状況を打破するにはどうすればよいだろうか。悩ましい。
「…………?」
僕はため息をつきながら教室に入り、自分の席に着く。そして一時限の授業の準備をすべく、カバンからモゾモゾと数学の教科書を取り出していると、ミーくーんという声が聞こえた。
「! 結美か。どうした?」
「どうしたもこうしたもないわよー。留美ちゃんとも何かあったの?」
「! まあ、少し気になることがな……」
「ふーん、そ。まぁ、留美ちゃんのことなら相談してね。私もあの子のこと妹みたいに思っているし」
「……そうか。分かった、ありがとう」
そして1時間目を終えて、休み時間に入る。
「ミー君」
「結美」
「あのさー……、南美さんとは、その……どうなってるの?」
「え!? うん、まあそれは~……」
うーん、結美がそういうこと訊いてくるとはっ。はてどう答えたもんか……。
「うーん、まだ少しすれ違っていて……」
「ふーん、そぅ……」
そして2限目終えての休み時間、
「ミー君」
「結美!」
「やっほーっ」
「どうかしたか?」
「いや、うーん、なんかみんなそれぞれに悩んでいるみたいだからさ、どうかしたのかなって」
「結美……」
ったく、こいつは。
「お前は滅多に悩まないもんな」
「む、そんなことないって。私だって昨日、カツカレーの大盛りにするか、カツ丼大にするかで悩んだもん!」
「ぷっ、そうか、そうか。それは結美らしい悩みだ」
「でしょ? 私も悩むんだもん」
3限終わりの休みにて。
「ミー君」
「結美か。今日はやけに来るな、どうした?」
「あのね、そのお母さんがね、またデザート用意しているから近いうちにウチへ来てねって言ってたから」
「おー、りょうか~いっ」
「あ、それと校内でいいところ見つけたから、次の昼休みは一緒にご飯を食べない?」
「えーっと、それは優二に訊かないと……」
そしてふと優二の方を見ると、手を大きく輪にしていた。
「OKみたいだな……。分かった行こう」
そして4限を終えて昼休み、僕は結美と一緒にクラスを出る。そのすれ違いざまに南美と目が合った気がしたが、気のせいだろうか。
「んーー、疲れたわ~」
「……」
結美は気持ち良く伸びをしながらくつろぐ。僕は逆にモンモンとした。屋上に行くための階段で、あまり人が寄りつかない場所みたいだが、そこに結美が誘導する時に僕は後ろを付いていく。だから久しぶりにちゃんと結美の体型を見たのだが、なんかめっちゃムチムチしてて前よりも断然肉付きが良くなっている。
絶対カツカレーだのカツ丼だのを食べてるからだな!
それに階段登るのミニスカートだからひらひらして視界が気になって気になって……、
「ん? どうかした?」
「いや、別に……」
「まぁ、いいわ。ご飯食べましょ」
「お、おう……」
僕達は無言でむしゃむしゃと弁当を食べる。
ふむ、一体どうやって上手く南美に訊けばよいだろうか。直球はまずいし~、だからといって遠回しに訊くのもなんか違うし。いや、そもそも彼女と1:1になる機会があるかな? うーん、悩まし……。
「あー、また眉間にしわ寄せてるー!」
「え?」
「今日はずーとなにか考え事してる表情になってるよ!」
「そ……そうか?」
「そうよ! 新たに留美ちゃんも加わったから、さらに深い眉間になってるよ!」
「……」
「小さいころはそもそもそんな悩む相手がいなかったから、悩むことすらなかったけどねえ」
(まぁ、確かに……)
「もう、二人のことで何か悩んでるんでしょうけど、相手ことばかり考えちゃダメよっ。自分の身や気持ちをちゃんと考えて整理しないと」
「……」
「多分二人もミー君の気持ちを気にしているわ」
「……」
「それにミー君がそんなに悩んでるの私は見たくないし」
「結美……お前……」
そうか、今日はずーと僕のところに来ていたのは……、
「……僕のこと励ますために」
「……」
彼女は下に俯く。
まったく僕には勿体ないほどの幼馴染がいて、とても幸せものだな。
「ありがとう結美。お陰で気持ちが楽になったよ」
「そう? それは良かったっ」
「それに二人のことも気にかけてくれて……」
「そ、それは違うわ! 私はただミー君と話せるチャンスが出来ただけ。二人は関係ない!」
「そうか、そうかっ」
「……で、ミー君は二人とどうしたいの?」
「僕は……」
もう決める時かなと気持ちを新たにしたのであった。
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